【2438】第三章 「月、満ちる時」 |
あのひとが腕を伸ばしている 俺に向けて・・・ あのひとがか細く叫んでいる 魅惑の声で・・・ あのひとが見つめてくる 血の色の瞳で・・・ 『やっと逢えるね 待ち遠しかった 狂いそうなほどに・・・・・ 俺は樹海の奥にいるよ 古城の中で待っているよ さぁ 早く来て 月が見ている内に・・・・・』 ――――――もう俺は、貴方のモノ。 「なぁ、ほんっとにこの樹海って言うてたんか?」 「そろそろ日が暮れるよ・・・魔獣が出るかも」 「え゛――――っ!!!」 「平気平気。ゆっきーはえっらい神官様やで。そんなもんちゃちゃっとお得意の神術で・・」 「ken君。勘違いしてるみたいだけどさ、神術って言うのは治療専門なの。攻撃力なんて殆ど無いよ」 「何――――っ!!!」 ここは街のはずれから続いている樹海である。 夢の人物に言われた通り、tetsuはここを訪れた。が、その背後では延々とken・yukihiro・星夜が騒がしく喚いていた。一人で行くはずが、三人に見つかって一緒に行く事になってしまったのだ。 しかし、その余りの騒がしさにいい加減我慢の限界を迎え、tetsuは足を止め肩を怒らせて振り返った。 「あのなぁ!俺は一っ言もついて来ていいなんて言うてないんやで!?勝手に付いて来といて何騒いでんのや!!大体あの人が呼んでるんは俺一人なんやで!!!自分ら邪魔者以外の何者でもないやんか!!!!」 絶叫したtetsuの凄まじい形相に本気の怒りを感じ取り、ぴた、と三人の声が止まる。 はぁはぁと荒い息を吐いて、我に返ったtetsuはふいと顔を背けた。 「・・・・ごめん。もう、ついて来んなや」 「あ、ちょっとtetsu!!」 星夜の静止も聞かず、tetsuは走り出した。 「どうしよう・・・」 星夜はおろおろしながら同じくとり残されてしまったkenとyukihiroに訊ねた。 が、kenもyukihiroも心配そうな素振りはまったくない。 「どうするって・・・」 「決まってるじゃない」 良く解らず、?を顔中に表示してしまう星夜。 「え〜?何?何?」 星夜はわけがわからず眉根を寄せた。その苦悩をよそにyukihiroは屈伸運動を始める。 kenは自分より若干低い位置にある星夜の頭をわしゃわしゃと撫で、口の端を上げて楽しそうに言った。 「追いかけるんや!!」 「お待ちしておりました、tetsu様」 「ご主人様の命により、貴方様を城へご案内させて頂きます」 走り疲れて立ち尽くしていたtetsuの前に、そう言って現れたのは二人の少女。 どちらも整った顔をしていて、ロングスカートにエプロンというメイドのような出で立ち、頭には薔薇を模した小さな銀細工を飾っている。 先に口を開いたのは、右側に立っている、深い藍色の服を着て黒髪を肩で切り揃えた賢そうな少女だった。 「私は蝶と申します」 「私は愛羅と申します」 続いて、もう一人も口を開いた。深い赤色の服に金色の巻き毛を腰まで伸ばした人形のように可愛らしい少女だ。 「もう夕刻・・・急ぎませんと、この辺りには魔獣が現れます」 「こちらですわ」 向かい合わせに立った二人が背後の茂みに手を翳した。すると、茂みが激しく燃え上がった。 呆気にとられるtetsuの前でその炎はすぐに収まり、焼け跡の向こうに荘厳な城が覗いた。 「な・・・・魔法やて・・・?」 tetsuが魔法を見たのは初めてだった。 魔法とは、yukihiroの扱う神術に限りなく近く、限りなく遠い物だ。 神術は文字通り聖なる力を元にしていて、その基本は相手を傷付ける力ではなく守り癒す力だ。これは精神を鍛えれば鍛えるほどに力を増す。 しかし、魔法の源は魔力・・・『邪』の力、心に思い描いたモノを具現化する力なのだ。だから鍛えるべくは精神よりも想像力であると言える。 即ちそれは、術者の力量とイメージしたモノによれば、対象を一撃で死へと追いやる事もできるという事である。 たった今、tetsuの目前で燃え尽きた緑のように。 「どうなさいました?」 「ご主人様がお待ちです」 蝶と愛羅が立ち尽くしたままのtetsuを怪訝そうに見る。 (・・・・ここで怯んでも仕方ない、俺はあの人に逢いたいんや) 口の中で呟いて、tetsuは二人を見据えて言った。 「解った。案内してや」 「くすくす・・・・・そうだよ。君は一人で来ればいい。邪魔者なんかいらないんだ」 彼は蝋燭の灯りにゆらゆらと照らされながら尊大に笑った。 その炎もまた魔法によるものなのか、明るい空色だ。 「でも、彼が来たらあの二人は用済みだな・・・・。また閉じ込めておけばいいかな?貴女がよくやっていたようにね、義母様」 呟いて、彼は部屋の隅で罅割れたまま放置されていた写真立てを拾い上げた。ぱんぱんと降り積もった埃を払うと、セピア色の写真の中で、輝くような美貌の女性が微笑んでいた。 彼は、その女性に憎しみに満ちた視線をぶつけると、右手に青白い炎を出現させ、写真立てごと、その笑顔を燃やした。 「義母様、知っていましたか?俺は、貴女を愛してなんかいなかった。例えあの時貴女に拾われていなければ無かった命でも・・・・俺は死んだほうがマシやった!」 叫びと共に、壁を殴りつける。その憎しみの思念に呼応して、部屋中に青白い炎が現れる。 不思議に冷たい炎に囲まれ、かくんと糸の切れた人形のように崩れ落ちる。 大きな紅い瞳から、血の色の雫が溢れ出す。 「もうイヤなんや・・・独りは・・・もうイヤや・・・・・」 涙さえ もう 血の色をしている この穢れた身体が かつては 人の子の物だったと どうして言えるだろう? もうすぐ逢える 来てくれる あなたなら せめて 俺の心だけでも 人の子の物に 戻してくれるだろうか? ああ 満月が 銀色の傍観者が 俺を嘲笑う―――――― |
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2404 序章 「月光」 2001/12/21(Fri)05:27 風城空牙 (size:1911) |
2423 早速のご感想大・感・謝・・・v 2001/12/21(Fri)18:56 風城空牙 (size:907) |
2429 きゃぁ!!(^▽^) 2001/12/22(Sat)04:38 まいちん☆ (size:769) |
2432 第一章 「日常と呼び声」 2001/12/22(Sat)08:51 風城空牙 (size:4217) |
2433 ・・・・なんか長い(爆) 2001/12/22(Sat)09:03 風城空牙 (size:993) |
2437 第二章 「狂気に似ている」 2001/12/22(Sat)15:58 風城空牙 (size:4368) |
2438 第三章 「月、満ちる時」 2001/12/22(Sat)16:07 風城空牙 (size:4719) |
2458 第四章 「邂逅」 2001/12/23(Sun)11:45 風城空牙 (size:4516) |
2459 ・・・・・どうしよ(自爆) 2001/12/23(Sun)12:09 風城空牙 (size:1064) |
2472 幕間「今絡まる運命の螺旋」 2001/12/24(Mon)18:58 風城空牙 (size:5966) |
2497 第五章 「動き出す―――」 2001/12/30(Sun)12:47 風城空牙 (size:4078) |
2498 第六章 「血色の薔薇」 2001/12/30(Sun)17:46 風城空牙 (size:3106) |
2507 明けまして↓ 2002/1/1(Tue)16:29 風城空牙 (size:1592) |
2514 第七章 「月が沈み日が昇る」 2002/1/2(Wed)10:42 風城空牙 (size:4789) |
2518 第八章 「求める理由」 2002/1/3(Thu)11:39 風城空牙 (size:5582) |
2519 第九章 「抑え切れない力」 2002/1/4(Fri)09:34 風城空牙 (size:4120) |
2547 わーい \(^〇^)/ 2002/1/8(Tue)19:12 風城空牙 (size:862) |
2554 第十章 「眠れる森の――」 2002/1/9(Wed)18:51 風城空牙 (size:5635) |
2559 第十一章 「その感情の名前」 2002/1/10(Thu)18:28 風城空牙 (size:2948) |
2560 続・ねぇねぇ。 2002/1/10(Thu)18:43 風城空牙 (size:828) |
2566 第十二章 「覚醒を待つ心」 2002/1/13(Sun)08:12 風城空牙 (size:2444) |
2568 幕間 「笑顔」 2002/1/13(Sun)08:21 風城空牙 (size:2405) |
2582 第十三章 「戸惑う想い」 2002/1/16(Wed)18:44 風城空牙 (size:2935) |
2595 第十四章 「正反対の気持ち」 2002/1/20(Sun)11:17 風城空牙 (size:3375) |
2612 遅くってごめんなさい(汗) 2002/1/27(Sun)12:45 風城空牙 (size:839) |
2613 幕間 「祈りに似た言葉」 2002/1/27(Sun)12:47 風城空牙 (size:1081) |
2614 第十五章 「迷いを捨てた胸に在るモノ」 2002/1/27(Sun)12:53 風城空牙 (size:3185) |
2626 第十七章 「サヨナラと約束」 2002/2/19(Tue)20:58 風城空牙 (size:2752) |