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2404 序章 「月光」 2001/12/21(Fri)05:27- 風城空牙 - 16931 hit(s)
皆様の期待に応えるべく(はい?)また来ましたv
初☆小説ですわ♪
しかも続く。
・・・・・載せていいのかしら、削除されそう(でも書く。)

++++++++++++++++++++++++++++

彼は、独りだった。
長い、永い間、ずっと。

一体どれほどの時を無駄に費やしてきたのか、彼自身にも、もう解らない。
けれど、彼は止めなかった。
『誰か』を待つことを。

深い樹海の奥、ひっそりと佇む古城。
大きく、荘厳な建築物。
そこに、彼は居た。もう、ずっと前から。

広すぎる部屋の中、彼は祈り続けていた。
押し潰されそうな孤独と、儚くも美しい月光に包まれて。

開け放たれた窓から悲しげに輝く月を見上げ、彼は想う。
この想いは、何処に行くのかと。
誰の元に届くのかと。
ただ待つのは、恐ろしく不安な事で。もう何度、狂ってしまいそうになったか解らない。
それでも待ちつづけている。
自分を、愚かだと、思わないわけではないけれど。

「でも・・・・もうすぐだ」

そっと、空気さえ震わせぬよう細く呟く。
その声は、切ないくらい、深い悲しみに満ちていて。聴く者を惑わすような、絡みつくような響きを
帯びていて。
「もうすぐ・・・・・・来てくれる」
また、呟く。
さらさらした闇色の長い髪が、流れ込んだ夜風に乗ってふわりと舞う。
露になった大きな瞳は、強く鮮やかな緋色の輝き――――妖魔の証。
確信に満ちた笑みを湛えた口元が言葉を紡ぐ。僅かに覗く、鋭い牙。

「早く来て・・・・・・・・・・俺の元へ」


     やがて月が沈み 太陽が昇る 
   
     そして 太陽が沈めば 闇の中で月が輝く 

     永遠に違えられる事は無い 神が定めた 宇宙の法則

     あなたに逢いたい 名前さえ知らない あなたに

     時計を早めたい あなたに逢えるまで

     大地よ 回れ 少しでも早く・・・

     もっと もっと もっと早く 壊れそうなくらい・・・・・・

++++++++++++++++++++++++++++

いやん、何よこれ(死)
でもこれは序章です。まだまだ説明段階。
オチは・・・・何時つくかしら?なるたけ短くしよーっと・・・。
では(即逃)

あ、逃げる前に。
文中の吸血鬼様は・・・・・誰でしょうってバレバレや(核爆)






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2411 削除
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2423 早速のご感想大・感・謝・・・v 2001/12/21(Fri)18:56- 風城空牙 - 16040 hit(s)
きゃ――――――っ!
皆様どうもありがとうございますぅ!
嬉しいなぁ・・・v(危っ)

愛羅様>そうです、最後の所は「Wind of Gold」をパクってみた物です(爆)
    世界征服・・・いいかも(は?)でもそれやっちゃうと趣旨変わるんで我慢(やって欲しいけどね!)
    あ、やっぱりはい様は吸血鬼合いますよね!(はっ、素がでてる!)
 
星夜様>お初です、風城空牙と申します馬鹿女でございますわ♪
    良い感じですか〜?ありがとうです(喜)
    続きは・・・まだまだ考え中(爆死)
    気長にお待ちくださいませ(ぺこり)

蝶様>わーい詩が出てるよう(*^^*)感想は下にレスしますよv
   え、私そんなたいした事してないよう(照)
   でも私も時々小説休んで詩を載せるかもしれないなぁ(浮気者め・・・)

 
えっと、皆様出演希望出してくださってありがとうございます!(深々)
皆様のご期待にそえるように足りない頭を絞りまくって書いていこうと思っておりますわ♪

それでは★
これから次を書かなきゃ・・・・・。


2429 きゃぁ!!(^▽^) 2001/12/22(Sat)04:38- まいちん☆ - 16674 hit(s)
新作おめでとおおございますっ!!!早いわぁ!!更新☆

まいちん☆がしつこく言ったせぃ?でも嬉しいぃ♪(爆)

大好きですわぁ吸血鬼さま!!前、ヴァンパイアって漫画あったから立ち読みしてたらおもしろかったの!!(素)ちょっと怖いけども。

貴方様なんて言わなくていいよお♪こんなあほに。まいちん☆って呼んでくらさい♪
まいちん☆もね、気配を消したおかんやおとんに覗きこまれる時があるのですよ、『何してんの?』と(爆)何故か焦るよねぇ・・・

あ☆あとHP見たよぉ!!もう一つのほうも凄いわぁ♪お話もHPも!!また行くねぃ!!



もし良かったら、まいちん☆も出してもらったりなんかは・・・(爆)
生き物でしたら何でもいいですから。(謎)動く物だったらもっと嬉しい鴨♪
古城に住み着いたネズミで構いませんか??ちらっと。(笑)

2432 第一章 「日常と呼び声」 2001/12/22(Sat)08:51- 風城空牙 - 16816 hit(s)
最近よく夢を見る
長い髪をなびかせた綺麗なひとが 俺を呼んでいる夢を

  『早く・・・・早く来て・・・・』

唯一色を持っているのは そのひとの瞳だけ
それは 深い深い緋色――――――――――美しい、血の色。




「あんたは・・・誰や・・・?」
夢から覚めないまま、tetsuはもごもごと呟いた。
彼の顔はとても可愛らしく、今年で十六歳になった割には子供っぽさが抜けていない。
けれど、彼がそれを気にすることは無かったし、他人を明るくさせる無邪気な笑顔の元でもあったから、むしろ気に入っていた。
「誰や・・・・」
呟きながらまたも眠りの中へと沈み込んで行くtetsuの意識。それは、一番深い所まで行って、それから急浮上させられた。
寝起きの余りよろしくないtetsuを起こす事を日課としている少女が、時間通りに現れたのだ。

・・・・ダダダダダ、バターンッ!!

「こらtetsu!!起きろ――――っ!!!」

響き渡る、高い元気な声。
勢いに乗って空に舞う、赤みがかった茶の背中まである長い髪。
満面に笑みを浮かべた、すらりと背の高い綺麗な少女。
だが、彼女の台風の如き登場にも動じず(恐らく慣れてしまったのだろう)、tetsuは安眠を貪り始めていた。
「・・・ぐ――――、す――――・・・・」
・・・・一瞬、室内に沈黙が満ちる。が、それは爆弾投下前の、言うなれば『嵐の前の静けさ』であった。
少女の大きな栗色の瞳が、危険な感じにきらりと光る。

ゴンっっ!!!


「なんや、星夜。またtetsuをいじめて来たんか?」
台所に立って朝食の準備をしていた男が、tetsuの部屋から戻ってきた少女にからかうような声を掛けた。
星夜と呼ばれた少女は、男に向けて舌を出し、
「いじめたんじゃないもん。起・こ・し・て、あ・げ・た・の!!」
言って、赤くなった右手を撫でた。
男は星夜の様子を気に掛けるでもなく、手にしたフライパンの中で硬くなっていく卵を器用にも空中で裏返した。
男は名をkenと言い、星夜以上に背が高かった。
年は十八。まだ赤ん坊だった頃に父親を亡くし、十歳の時に母親も病気で死んだ。だから家事全般が大得意だ。
面倒見も良く、自分とtetsuにとっては幼馴染兼、良きお兄さん替わりである。
と言っても、生まれてすぐに両親を亡くしたtetsuはkenの家で一緒に暮らしていた為、もはや父親に近い人物であったかもしれない。
髪は茶色のクセっ毛。整った、だが少し子供っぽい顔には無精髭を生やしている。
彼の黒い瞳はいつもきらきら輝いていて、おもしろい事を思いついた時の子供の眼のようだと星夜は思っていた。
「文句言うなら、kenちゃんが起こしてあげればいいじゃない?」
視線を外して、星夜が言った。
kenは盗み見るように星夜を見、にやりと人の悪い笑みを浮かべた。
「・・・ええんか?」
「な、何よ。良いから言ってんでしょ!」
kenはむきになる星夜を見もせず、テーブルの上に目玉焼きの乗った皿を四人分、並べていく。
が、口だけはしっかりと動かしていた。
「そーんな事したら、大好きなtetsuに朝から会える口実がなくなるで〜♪」
「・・・・・・っ!!!!!」
さっきまでの威勢はどこへやら、星夜は顔を真っ赤にして固まってしまった。
と、玄関口から声がした。
「kenくーん、おはよー」
(はっ、yukihiro君の声だっ!!)
星夜にとっては天の助けである。
「お、おはようyukihiro君っ!!」
と足早に玄関へと逃げて行った。


さて、その頃のtetsuは・・・?

「・・・・・・なんでこんなに頭痛いんやろ・・・・・」
tetsuの頭には、大きなこぶが出来ていた。
毎朝tetsuを起こすのが星夜の日課なら、その星夜に殴られるのがtetsuの日課のようなものだった。
「・・・・・・ま、ええか・・・・」
大きく伸びをして、tetsuはベッドからようやく抜け出した。
起きてしまえばやる事は早い、椅子の上に引っ掛けてあったオレンジ色のシャツとジーンズに手早く着替える。
鏡の前で適当に髪を整え、大きくあくびをしながらドアノブに手を掛け、部屋を出ようと、した。
その刹那。
声が、聴こえた。

「・・・・もうすぐ・・・・満月の夜が・・・・・」

「その時・・・・・君は・・・・・俺の物に・・な・・・・」

「早く・・・・・・俺・・・とへ・・・」

途切れ途切れに頭の中へ響いてきた声は、少しづつ小さくなって、すぐに聴こえなくなってしまった。
「・・・今のは・・・あの人が・・・?」
声の主に尋ねるような口調だったが、tetsuは確信していた。
『今のは、夢で見たひとの声や、あの人は、俺を呼んでるんや』
半ば茫然として、tetsuは胸の前で右手を強く握り締めた。
「満月の夜に・・・俺は、貴方に逢えるんやろか?」
声に出して呟いたtetsuの胸に、『逢いたい』という思いが広がっていった。

    あと幾度太陽が沈めば 満月が訪れる?

    暗い空にきらきら光る 愚かな世界を見下ろし笑う

    銀色の傍観者

    待ち遠しい 待ち遠しい 気が狂いそうなくらい
 
    貴方が俺に逢いたいと望まれるように 

    俺も 貴方に逢いたいと望んでいる 

    これが 運命 というものなんだろうか?




2433 ・・・・なんか長い(爆) 2001/12/22(Sat)09:03- 風城空牙 - 16505 hit(s)
どぉもー★風城空牙でございます。
いやん、始まっちゃったよう(はい?)
なんか、好き勝手絶頂に家族構成やらなんやらいじって、もうごめんなさいリーダー!ごめんなさいkenちゃん!
平謝りです。土下座したいぃぃ(汗)

まいちん☆様>わぁ吸血鬼好きですか?私も大好きvでも身の回りにそーゆー人いないんですよう(沈)
       それに親に覗かれると怖いよね(苦笑)家は親父はでしゃばって来ないんですが母様がっ!
       HPも見てくださったそうで★ありがとうございます(ぺこり)
       そっちにも吸血鬼いるしねぇ(爆)
       あと出演希望・・・がんばってみます(爆死)できれば誰絡みーとか希望言って下さい。でなきゃ好き勝ってやって大変なことに・・・・(死)


美月星夜様>ごめんなさいなんかおかしなきゃらくたーに(滝汗)外見設定も好き勝手してるし(核爆)
      てっちーのお相手ってゆってたのになんか違う!!!
      これから頑張りますから見逃してください(逃)
      

あ、蝶様あーんど愛羅様!出番あるですよ!でも期待してはいけましぇんよぅ(をい)

それでは!!!(即逃)

2436 削除
2437 第二章 「狂気に似ている」 2001/12/22(Sat)15:58- 風城空牙 - 16919 hit(s)
「あれ、星夜ちゃん、ken君は?」
yukihiroが訊いたのは、エプロンにバンダナ姿の「主婦」然としたkenでは無く、代わりに星夜が長い髪をなびかせて猛ダッシュで現れたからだ。
「はぁっ、っと、kenちゃんはっ、今準備中でっ・・・」
(実はもうあたし達が椅子に座るだけなんだけどね)
心の中で呟いて、星夜は呼吸を整え始めた。星夜が落ち着くのをyukihiroは待つ事にした。
yukihiroはこの街の大聖堂の神官長の息子だ。
tetsuや星夜と同じ十六歳ながら、頭脳明晰で複雑な神術も難なくこなし、時には自ら祭壇にたって神事を執り行なう事もある。
だが、そのほっそりとした体格からも伺えるように体が弱く運動は大の苦手で、それが玉に傷と言えよう。
yukihiroの母はもう他界していて、父子家庭で育ってきた。が、父も忙しい上彼自身料理が得意ではない為、殆どkenの家で食事をするようになっていた。
星夜の両親は健在だが、日課の事もあるし、何よりkenが「飯作るんはなぁ、三人分も四人分も似たよーなもんなんや!!」と豪語した為に一緒に食べるようになっていたのだった。
少し経って、星夜がようやく落ち着いた頃。
伸ばしている髪を抑える為に撒いていた大判のヘアバンドを付け直しながらyukihiroが言った。
「もう大丈夫?俺お腹空いてるんだけど」
「え!?ああ、うん!ごめんねっ!!」
すたすた歩き始めたyukihiroを追って、星夜はkenの待つ居間へと向かった。

「あ、tetsu君おはよー」
丁度二人が食卓についた時、tetsuが部屋から出て来たのを見てyukihiroが声を掛けた。
「お前はほんっと、寝起き悪いなぁ」
エプロンを外しながらkenがからかう。
「ほんとだよ。あたしが居なきゃ一日中寝てるんじゃないの?」
(ああもうっ!なんで余計な事言っちゃうのかしらっ!!)
椅子に座りながらつい憎まれ口を叩いてしまい、星夜は心の中で嘆いた。
が、いつもなら言い返してくるはずのtetsuが、今日は何も言ってこなかった。それどころか、kenや、yukihiroにさえも言葉を返さないのだ。
「tetsu・・・?どうかしたの?気分でも悪い!?」
様子のおかしいtetsuに、星夜は気が気ではない。
横からkenが「お前が殴った所為やないの?」とぼそっと言った事にも気付かなかった。
「tetsu・・・・どうしたのよ!!」
肩を揺すられ、ようやくtetsuが真っ直ぐに星夜を見た。その黒い瞳がなんだか穴のように虚ろで、星夜は背筋が凍った。
(・・・・・・tetsuじゃないみたい・・・・・)
そんな言葉が星夜の脳裏をよぎった、その刹那。
tetsuが呟いた。
「満月の日・・・」
「え?」
「なんやて?」
「tetsu君?」

その後も三人は何度か訊き返してみたが、tetsuはそれきり口を開こうとはしなかった。



「くすくす・・・・」
暗い広間に、妖艶な、ほんの少し憂いを含んだ笑い声が響く。
広間の中心、無数の蝋燭の灯りと床に描いた緻密で美麗な魔方陣の薄紫の輝きに彩られ、彼が笑っていた。
「そう・・・満月の夜、君は俺の元へ来る」
肩より少し長い艶やかな黒髪を、指で弄んでは掻き揚げる。
そんな単調な動作を飽きもせずに繰り返して、彼は歌うように朗々と言葉を紡ぐ。
「満月が見下ろす場所は全て俺の領地・・・・出来ない事は何も無い。
満月さえ出ていれば、俺の魔力は無限だ。絶えず湧き出る泉のように」
そして、そっと自分の体を抱きしめて、うっとりと呟く。夢見るような瞳で。
「ああ・・・早く逢いたいな・・・・」
緋色の瞳は、目の前にある物など何一つ映してはいなかった。
ただ、もう少しで手に入るモノへの憧憬に、きらきらと宝石のように輝いていた。
「――――」
ふと、何か思いついたように顔を上げ、彼は口の中で呪文を唱えた。
次の瞬間、小柄な身体は広間から掻き消えた。


「ねぇ、ここから出してあげようか?」
言葉が壁に反響して、狭い通路を駆け巡る。
彼は城の地下へと転移していた。
そこには無数の牢があった。この城の本当の持ち主が、捕らえた旅人を閉じ込めるのに使っていた。
もっとも、その女が死んだのは遥かな昔の事だから、鉄格子は錆び、扉さえ開けられなくなった牢もあった。閉じ込められたままでその生を終えた者も・・・・・。
「ねぇ、出たいでしょう?」
彼は、比較的綺麗な格子の嵌った牢の前に立っていた。
そこには、少し前に迷い込んで来たのを言葉巧みに騙して閉じ込めた二人の少女が居た。
彼女達は、整った顔を恐怖に歪めて震えている。しかし、彼の美しさに目を離せずにいた。
そう、彼は美しかった。
緋の眼――妖魔でなければ、人形かなにかとしか思えない程。感嘆と同時に、凄まじい恐怖を感じずにはいられない程。
自分を見つめる二対の畏怖に満ちた視線の中で、彼の形の良い紅い唇が、開く。
悪魔のような、残酷な笑みを湛えて。
「本当は出たいんでしょ?俺の事、手伝ってくれるね?」
少女達は、その笑みに魅せられたかのように虚ろに頷いた。

    誰も 俺に逆らえない
 
    俺にとって 他人の命程 無価値な物は無い

    だから 消すのは簡単 

    それを 皆知っている

    誰も 俺に逆らえない

    けど この優越感の底に在る

    拭えない 消せない 名前を知らない感情は何?

    あなたなら 教えてくれるのかしら

    ああ 満月の日まで もう少し・・・・・・


2438 第三章 「月、満ちる時」 2001/12/22(Sat)16:07- 風城空牙 - 16088 hit(s)

あのひとが腕を伸ばしている 俺に向けて・・・
あのひとがか細く叫んでいる 魅惑の声で・・・
あのひとが見つめてくる 血の色の瞳で・・・

『やっと逢えるね
待ち遠しかった 狂いそうなほどに・・・・・
俺は樹海の奥にいるよ 古城の中で待っているよ
さぁ 早く来て 月が見ている内に・・・・・』

――――――もう俺は、貴方のモノ。



「なぁ、ほんっとにこの樹海って言うてたんか?」
「そろそろ日が暮れるよ・・・魔獣が出るかも」
「え゛――――っ!!!」
「平気平気。ゆっきーはえっらい神官様やで。そんなもんちゃちゃっとお得意の神術で・・」
「ken君。勘違いしてるみたいだけどさ、神術って言うのは治療専門なの。攻撃力なんて殆ど無いよ」
「何――――っ!!!」
ここは街のはずれから続いている樹海である。
夢の人物に言われた通り、tetsuはここを訪れた。が、その背後では延々とken・yukihiro・星夜が騒がしく喚いていた。一人で行くはずが、三人に見つかって一緒に行く事になってしまったのだ。
しかし、その余りの騒がしさにいい加減我慢の限界を迎え、tetsuは足を止め肩を怒らせて振り返った。
「あのなぁ!俺は一っ言もついて来ていいなんて言うてないんやで!?勝手に付いて来といて何騒いでんのや!!大体あの人が呼んでるんは俺一人なんやで!!!自分ら邪魔者以外の何者でもないやんか!!!!」
絶叫したtetsuの凄まじい形相に本気の怒りを感じ取り、ぴた、と三人の声が止まる。
はぁはぁと荒い息を吐いて、我に返ったtetsuはふいと顔を背けた。
「・・・・ごめん。もう、ついて来んなや」
「あ、ちょっとtetsu!!」
星夜の静止も聞かず、tetsuは走り出した。


「どうしよう・・・」
星夜はおろおろしながら同じくとり残されてしまったkenとyukihiroに訊ねた。
が、kenもyukihiroも心配そうな素振りはまったくない。
「どうするって・・・」
「決まってるじゃない」
良く解らず、?を顔中に表示してしまう星夜。
「え〜?何?何?」
星夜はわけがわからず眉根を寄せた。その苦悩をよそにyukihiroは屈伸運動を始める。
kenは自分より若干低い位置にある星夜の頭をわしゃわしゃと撫で、口の端を上げて楽しそうに言った。
「追いかけるんや!!」


「お待ちしておりました、tetsu様」
「ご主人様の命により、貴方様を城へご案内させて頂きます」
走り疲れて立ち尽くしていたtetsuの前に、そう言って現れたのは二人の少女。
どちらも整った顔をしていて、ロングスカートにエプロンというメイドのような出で立ち、頭には薔薇を模した小さな銀細工を飾っている。
先に口を開いたのは、右側に立っている、深い藍色の服を着て黒髪を肩で切り揃えた賢そうな少女だった。
「私は蝶と申します」
「私は愛羅と申します」
続いて、もう一人も口を開いた。深い赤色の服に金色の巻き毛を腰まで伸ばした人形のように可愛らしい少女だ。
「もう夕刻・・・急ぎませんと、この辺りには魔獣が現れます」
「こちらですわ」
向かい合わせに立った二人が背後の茂みに手を翳した。すると、茂みが激しく燃え上がった。
呆気にとられるtetsuの前でその炎はすぐに収まり、焼け跡の向こうに荘厳な城が覗いた。
「な・・・・魔法やて・・・?」
tetsuが魔法を見たのは初めてだった。
魔法とは、yukihiroの扱う神術に限りなく近く、限りなく遠い物だ。
神術は文字通り聖なる力を元にしていて、その基本は相手を傷付ける力ではなく守り癒す力だ。これは精神を鍛えれば鍛えるほどに力を増す。
しかし、魔法の源は魔力・・・『邪』の力、心に思い描いたモノを具現化する力なのだ。だから鍛えるべくは精神よりも想像力であると言える。
即ちそれは、術者の力量とイメージしたモノによれば、対象を一撃で死へと追いやる事もできるという事である。
たった今、tetsuの目前で燃え尽きた緑のように。
「どうなさいました?」
「ご主人様がお待ちです」
蝶と愛羅が立ち尽くしたままのtetsuを怪訝そうに見る。
(・・・・ここで怯んでも仕方ない、俺はあの人に逢いたいんや)
口の中で呟いて、tetsuは二人を見据えて言った。
「解った。案内してや」


「くすくす・・・・・そうだよ。君は一人で来ればいい。邪魔者なんかいらないんだ」
彼は蝋燭の灯りにゆらゆらと照らされながら尊大に笑った。
その炎もまた魔法によるものなのか、明るい空色だ。
「でも、彼が来たらあの二人は用済みだな・・・・。また閉じ込めておけばいいかな?貴女がよくやっていたようにね、義母様」
呟いて、彼は部屋の隅で罅割れたまま放置されていた写真立てを拾い上げた。ぱんぱんと降り積もった埃を払うと、セピア色の写真の中で、輝くような美貌の女性が微笑んでいた。
彼は、その女性に憎しみに満ちた視線をぶつけると、右手に青白い炎を出現させ、写真立てごと、その笑顔を燃やした。
「義母様、知っていましたか?俺は、貴女を愛してなんかいなかった。例えあの時貴女に拾われていなければ無かった命でも・・・・俺は死んだほうがマシやった!」
叫びと共に、壁を殴りつける。その憎しみの思念に呼応して、部屋中に青白い炎が現れる。
不思議に冷たい炎に囲まれ、かくんと糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
大きな紅い瞳から、血の色の雫が溢れ出す。
「もうイヤなんや・・・独りは・・・もうイヤや・・・・・」

     涙さえ もう 血の色をしている

     この穢れた身体が かつては 人の子の物だったと

     どうして言えるだろう?

     もうすぐ逢える 来てくれる あなたなら

     せめて 俺の心だけでも
  
     人の子の物に 戻してくれるだろうか?
 
     ああ 満月が 銀色の傍観者が

     俺を嘲笑う――――――




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2458 第四章 「邂逅」 2001/12/23(Sun)11:45- 風城空牙 - 16472 hit(s)

貴方は こんなくらい闇の中 何を見ていたのかな
俺には 何も見えない
聴こえないし 感じられない

ただ、あなただけがいろあざやかで・・・・・・・・


「「ご主人様。tetsu様をお連れしました」」
蝶と愛羅は、青白い蝋燭が照らす幻想的な空気に満ちた広間にtetsuを案内した。
天井はとても高く、そのままどこか別の空間へと続いていそうな程だった。
そこには部屋の中心に大きな革張りの椅子が一つあるだけで、他には何も置かれていなかった。
と、その椅子から小柄な人影が立ち上がり、
「ごくろうさま、蝶、愛羅。下がっていいよ」
心を消し、自分に仕える忠実な人形に仕立てた少女二人に冷たく告げた。
そして、顔を上げると待ち望んでいた客人に向けてにっこりと綺麗に微笑んだ。
その笑みに、蝶と愛羅は頬を赤らめ、うっとりと夢見るような瞳になる。この二人は、主人を本当に愛しているのだろう。それが偽りの主従だと気付かずに。
が、tetsuもまた彼女達と同じように彼の笑顔に心奪われていた。
(ななな、何て綺麗なひとなんや・・・?)
tetsuは赤くなった頬を無意識に押さえた。

艶やかな長い黒髪
雪白の肌は陶磁器のよう
零れそうに大きな瞳は 血溜まりの色

全てが完璧に整っている。
こんなに美しいイキモノがこの世に居る事に、tetsuは心から驚き、一瞬で魅了されていた。
その様子を穏やかな目で眺めながら、
「ようこそ、俺の城へ」
優雅な礼をして、彼は一歩踏み出した。
「俺はhyde。・・・・逢いたかったよ、tetsu。ずっと、君だけを待っていたんだ」
惑わすような声で、tetsuの心を支配していく。その言葉の一つ一つに、呪縛の魔力が込められていた。
hydeはゆっくりとtetsuに近付く。
蝶と愛羅はもういない。
tetsuは、見えない鎖に縛られたかのように動けない。
ただ、自分が壊れていく感覚に飲み込まれていった。
「・・・ずっと、傍に居てくれる?」
何時の間にか、hydeが目の前に立っていた。
そっと、優しく頬を撫でられる。hydeの手は、血が通っていないかのように冷たい。
「・・・俺を、独りにしないで・・・・」
耳元で囁かれたと思った瞬間、tetsuの意識は途切れた。

瞼の裏に焼き付いて離れない、窓の向こうで笑う満月・・・・・・・・。


「ああ、そうだ」
力の抜けたtetsuの身体を愛しげに抱き締めながら、hydeは扉の向こうに控えているであろう少女達に命じた。
「門の辺りに居る人達・・・・・連れてきてくれる?」
「「かしこまりました」」


ここで少し時間が遡る。
tetsuが蝶と愛羅に連れられて、茨の巻き付いた、薔薇を模した城門を潜った頃。
蝶と愛羅が燃やした茂みの辺りで。
「・・・ほんとに行くの?(半泣)」
「・・・yukihiro君は行かないの?」
「・・・星夜は行くんか?」
何とかtetsuの尾行に成功したken・yukihiro・星夜の三人だが、木陰から覗く古城の醸し出す『いかにも』という雰囲気に気圧されて中々先に進めずにいた。
「・・・俺、帰ってもいいかなあ?(半泣)」
yukihiroはがたがたと震えている。
「なんや、ゆっきー情けないなぁ。いっくらなんでもオバケなんか」
「きゃ――――――っ!!!!」
kenが茶化して言った『オバケ』と言う単語にさえ、yukihiroは大絶叫を返してきた。
隣にいた星夜は耳を押さえて涙目で訴えた。
「yukihiro君・・・・耳いたい・・・・・」
「わっ、ご、ごめん、星夜ちゃんっ」
yukihiroは恐怖の余り声がひっくり返ってしまっている。彼は極度の怖がりなのだ。
その様子に呆れつつもkenは口を開く。
「けどなぁ・・・・行かんとあかんやろ?」
がりがりと頭を掻く。
「・・・・kenちゃん、kenちゃん」
くいくいとkenの着ている派手な柄の赤いシャツの裾を引っ張って、星夜が耳打ちする。
「それはそうなんだけど、yukihiro君はどうするの?まさか置いてくわけにも」
「いやあああああっ!!置いて行かないでええええええっ!!」
どうやら聞こえていたらしい。
yukihiroは目に涙を浮かべて星夜の肩を揺さぶった。
「うわあああああああyukihiro君ちょっとおおおおおお」
「ゆっきーあかんて、星夜が死ぬ!」
kenがなんとかyukihiroを宥めようとした、その刹那。
城門が、音も無く開いた。
そこから人影が二つ、こちらに向かって近付いてくる。
「――――――っ」
yukihiroは卒倒しかけた。星夜が慌ててそれを支え、現実に止まらせる。
kenだけが落ち着いてその人影を見据えた。
「・・・どーやら向こうからお迎えが来たみたいやな」

やげて、三人の前に行儀よく並んで二人の少女は言った。tetsuに言ったのと同じ事を。

「お待ちしておりました、ken様、yukihiro様、星夜様」
「ご主人様の命により、貴方様方を城へご案内させて頂きます」

 
「くすくす・・・・・」
hydeは大きな天蓋のついたベッドの上に寝そべっていた。
頭を枕元に座らせたtetsuの膝に乗せ、嬉しそうに笑う。
深紅の絹が、彼の肌の白さを際立たせる。
ふと、思い出したようにtetsuを見上げてhydeが囁く。
「ねぇ、tetsu。君に逢いに来た人達が居るんだよ。・・・・邪魔だよねぇ」
言って、酷薄な笑みを浮かべる。

「消しちゃう?」

     望むモノは手に入れた

     あなたの身体 あなたの魂(ココロ)

     もう何も要らない

     世界さえ 俺には もう 価値が無い

     あなたさえ 居てくれれば 
  
     こんな世界 消えたって構わない

     だから 邪魔するモノは

     赦さない――――――! 
    


2459 ・・・・・どうしよ(自爆) 2001/12/23(Sun)12:09- 風城空牙 - 16616 hit(s)
皆様こんにちわv
風城空牙でございますぅv

どうしようなんだか二人の世界に旅立ってしまいましたね(遠い目)
妄想回路が大暴走でパソコンの前でニコニコしてます(死)
いや、まだまだ書き足りないんだけど心は最終章(は?)
やっぱり初小説★なんて暴挙にでたのがいけなかったかしら。楽しい〜v(爆)

蝶様>よかったぁ気に入ってもらえて(喜)
   出演してくれる方の外見って、名前のイメージから適当にいじってます。えへ(何)
   お城の感じとかは適当に想像してください。お任せです♪

hana様>お初ですね。うれしいなぁv
    素敵ですか?ありがとうございますvわーい(単純)
    妄想力・・・・それには自身があるです!
    でもhana様のお話もおもしろくって良いですよ?

美月星夜様>はい!更新はできる限り早くやろうと常に思っております!
      でもやっぱりただ暇なだけ・・・という感じしてしまうのですが(汗)
      それにそんな上手じゃないですよう(照)
      

あ、そうだ!明日っから私祖母宅に行ってくるのでネットできないです。早く書くって言ったばかりなのに・・・。
でも今年の内にもう一話くらい書きたいなぁ・・・・。
はい様の過去とか。

ではでは。



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2472 幕間「今絡まる運命の螺旋」 2001/12/24(Mon)18:58- 風城空牙 - 16178 hit(s)


ねぇ 聴いてくれる?
俺が いつからココに居るのか
どうして こんな身体になってしまったのか
君には 知って欲しいんだ 何故だか解らないけど
俺の孤独 俺の苦しみ

そして、どれほど君の光に焦がれていたか。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++

「母様・・・早よ起きてや」
ゆさゆさと、少年は横たわる母親の身体を揺さぶった。だが、母親に目覚める気配はない。
「なぁ、母様・・・なんで、こんなに冷たいんや」
力無く投げ出された雪色のほっそりとした手を取って、少年は泣きそうな声で呟いた。
・・・・なぜ、こんなにも冷たいのか。
なぜ、あの綺麗な緑色の瞳が開いてくれないのか。
その答えを、彼は知っていた。
それは『死』だ。
生まれつき心臓を患っていた母。
その病状が数年の内にみるみる悪化していった事くらい、まだ十にも満たない少年だって知っていた。
ここ一年の間など、床から起き上がる事さえままならない程だった。
その理由の一つに、彼女を心から愛し支えてくれていた夫の死があった。

その男はこの辺り一帯を治める領主だった。
その息子である少年は、時期領主に申し分ない文武両道に長けた優秀な子であった。
優しい父と美しい母と共に、少年はいつまでも幸せに暮らしていけると信じていた。願っていた。
しかし、その願いは容易く打ち崩される。
父親が、戦死したのだ。
領地の外れで起きた内乱を収めに行き、終戦のきざしの見えた矢先の事であった。

「母様・・・・俺が守ってやる言うたのに・・・・・父様と約束したのに」
少年の透き通るように白い頬を、透明な雫が伝う。
それは、緑色の瞳から止めどなく溢れ、地に零れていく。
「あんな奴に追い出されて・・・・・・こんな所で母様を死なせてしもた・・・・・」
あんな奴、とは父に仕えていた老人の事だ。
年の割に野心家で、少年はいつか老人がこの屋敷を奪って領主になろうとしているんじゃないかと疑っていた。
その予感は的中した。
なのに、それを防ぐ事が出来なかった。
それを自分の幼さの所為にする事は彼のプライドが赦さなかった。
そしてなにより、父が戦に出向く直前、自分に言った言葉。大切な約束。それを守れなかった事が悔しかった。

『ええか、今はこの屋敷の主はお前や。この家と、そして母さんを守れ。・・・頼んだで、hyde』

「・・・くっそぉ・・・!」
hydeは声を殺して泣いた。涙が止まらなかった。悲しくて、悔しくて、自分が嫌で堪らなかった。
『・・・俺にもっと力があれば・・・!!』
「母君も死なずに済んだ、そう思うのですね?」
ふいに背後から聞こえた声に、hydeはびくっと身を竦ませ、素早く振り向いた。
動かない母親の遺体を、庇うように両手を広げて。
「怖がらないで下さいな。妾は舞。貴方を助けに参りましたの」
言って、茂みの中から現れたのは、儚げな印象の美しい女だった。
裾に細かなレースを縫いつけた薄紅色のワンピースを纏っていて、風に舞う腰までありそうな長い髪は艶やかな黒。
大きな澄んだ瞳は赤い。血のように紅い。肌は生者とは思えぬほどに白く――――
「・・・あんた、妖魔やな」
きっ、と緑玉を思わす目で彼女を睨みつけ、hydeは低く言い放った。
舞はころころと笑った。目を細めて楽しそうに笑った。
「ほほほ、随分と賢い坊やだこと。まあ御領主の御子息であればそのくらいは知っていて当然ですわね」
「何しに来たんや!!早よ去れ!!でないと・・・」
叫びながら、hydeは横に投げ捨ててあった自分の剣を拾い上げ、すらりと抜いた。
白刃が、木々から差し込む陽光を弾いて禍々しく光る。
「俺やって腕に覚えくらいある。無傷では済まされんで」
「・・・威勢だけは良いのですね。でも、腕が震えていましてよ?実際に人を斬るのは初めてなんじゃなくって?」
「・・・・!!」
「一緒にいらっしゃい。妾が貴方の義母になって差し上げましょう」
「・・・や、嫌や、寄るなっ!!」
恐怖に囚われ、hydeはぶんぶんと剣を振り回した。けれど舞は気にも留めずにhydeに近付く。
「大丈夫・・・痛みは無いわ。一瞬の快楽の後、貴方は老いや死の恐怖から開放されるのです」
「嫌っ、嫌や・・・やめてぇっ・・・・!!!!」
泣き叫ぶhydeの身体を優しく抱き寄せ、舞はその細い首筋に口付けた。
「っ・・・・・」

『あぁ・・・おれがこわされる・・・・・』

「くすくす、なんて美味しい血なのかしら。極上のワインのようね。・・・あら、気を失ってしまったのね?」
舞は力の抜けたhydeの小さく軽い身体を抱き上げた。
そして、横たわる女性を冷たく一瞥すると、茂みの奥へと消えた。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

「・・・その時から、俺はもう人の子やなくなった。・・・・・妖魔になったんや!」
hydeの瞳から、涙が溢れた。赤い涙が。
「見てや!tetsu、これを見てや!目だけやない、涙さえも血の色になってんやでっ・・・・」
話し始めた時とは、もはや別人のようだった。
取り乱したhydeは、tetsuの前で顔を隠しもせず泣き叫んでいた。まるで幼い子供に戻ってしまったかのように。
「・・・っ、俺はっ・・・・あの女を、舞を憎んでた。
けど、俺やってアホやない。しばらくは言う通りにしてやったわ。
呼んで言うから『義母様』って呼んでやった。作り笑い浮かべてな」
tetsuは何も言わない。否、言えない。心を消されているからだ。
黒い瞳は穴の如く虚ろで、真っ直ぐにhydeだけを見つめている。
「・・・五年くらい後やったかなぁ。舞の魔力が急に弱くなってしまったんや。
捕まえとった旅人皆喰ろうも力が戻らなくて、どうしたらええやろう言うて大慌てしとった。
せやから、俺に泣きついて来た時、言うてやったんや。『死んでしまえばええんやないの?』って。びっくりしとったなぁ・・・。
その時、俺は舞を殺した。何一つ残らんように、燃やしてやったんや」
hydeは両手を見下ろして、ぽつぽつと言葉を吐き出していく。
掌に、赤い雫が滴り落ちる。
「せやけどな、tetsu・・・・俺は気付いてしまったんや。
舞が居らんかったら、俺は、本当に独りになってしまう事に、殺した後に、気付いたんや・・・・」
ふいに、tetsuの目からも涙が流れた。
「・・・・tetsu、泣いてくれるんか?」
答えは無い。ただ、tetsuの頬を涙が音もなく伝って落ちるだけ。
「・・・・やっぱり、お前は優しいわ。思った通りや」
hydeはそっとtetsuの涙を拭って、その身体を抱き締めた。
「・・・・俺は、お前が欲しかった。お前の真っ白な光を見つけた時からずっと。
お前の、その優しさが。温もりが欲しかったんや。
まるで母様みたいに、暖かかったから・・・・・傍に置いておきたかったんや・・・二度と離さへんように・・・」
hydeは泣き疲れたのか、tetsuにしがみ付いたまま眠ってしまった。
その寝顔は、あどけない子供そのもので、とても愛らしい。
と、それをじっと見つめていたtetsuの脳裏に、か細いがはっきりとした意思の波動のような物が流れた。


『この子はこんなにも長い時を、孤独の中で過ごしていたのね・・・・・・。
私が何度も生まれ変わっている間も、ずっと生き続けていたのね・・・・・・・。
可哀想なhyde・・・・・・』



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2497 第五章 「動き出す―――」 2001/12/30(Sun)12:47- 風城空牙 - 16532 hit(s)
柔らかな月光 降り注ぐ星
薄紫に変わる空 近づく夜明け
もうすぐ太陽がやってくる 目覚めの時が
疎ましい日差し・・・・
このままずっと 眠っていたい あなたの隣で・・・・・・



「・・・・ねえken君」
「・・・・何やゆっきー」
「何かさ・・・ここ、変じゃない?」
ken・yukihiro・星夜は、蝶と愛羅に通された客室に居た。
古城はその巨大な外観通り、中の通路やら階段の踊り場やらも恐ろしく広かった。
勿論客室も広く、天蓋こそ無いものの大きなベッドが左右に四つずつ据え置かれていて
なおスペースが余っていた。
その中心にちょこんと置かれている白木の丸テーブルを囲んで、三人は城の主を捜し出
してtetsuの居場所を聞き出そうと色々考えていたのだが。
「変って言っても・・・何が、って具体的には言えないんだけどさ。
・・・城中に、魔力が渦巻いてるんだよね。誰かが強力な魔法を使おうとしてる。
そんな感じ」
いつもなら直感で物事を言うyukihiroが、珍しく考え込みながら言う。
「そーなると、さっきの二人が持ってた蝋燭の灯りも説明つくな。
青い炎なんか、魔法でもなければ付けられへん」
kenが真剣そのものの顔で言った。
「でも、魔法って、とっくの昔に使用禁止法令出されたじゃない!
・・・ううん、それよりも!その、誰かっていうのが蝶さんと愛羅さんのご主人様って
人ならtetsuも危ないんじゃないの!?」
星夜は信じられないといった面持ちで小さく叫んだ。
「そう考えるのが妥当だね」
「せやったら、早いとこtetsuを捜さんとな。・・・ほんと、手のかかる奴や」
言って、kenは立ち上がった。


空に浮かぶ満月は、もう沈み始めていた。
うっすらと白み始めた闇を見据えて、hydeは窓を押し開けた。
冷たい風が部屋に入り込み、青い灯りを吹き消して行く。けれどそれは一瞬の事で、素
早く新しい炎が灯る。
「・・・・tetsu」
窓の縁に腰掛けて、囁くように呼ぶ。
その声だけが頼りとでも言うように、tetsuは暗がりからゆっくりと足を踏み出す。
「tetsu・・・心を封じてしまったから、君にはもう見えないかもしれないけれど」
言いながらhydeは髪を掻き上げた。
露になった首筋に、深い傷跡が覗いた。

その瞬間、tetsuの意識下から何かが目覚めた。

「この傷はね、俺が自分で付けたんだ。
最初はただ舞に噛まれた跡を消したかっただけだった。
でも、いつからか・・・このまま死んでしまえたらって、思い始めて。妖魔が不死の身
である事は、よく解っていたんだけどね。
・・・・気が付いたら、こんなに深い傷になってた。消えないくらいに深い傷に・・・
・・」
悲しげに言葉を紡ぐhydeは、tetsuの変化に気付かない。
ただ、その緋色の瞳で刻々と色の変わって行く空を見つめている。
と、首の傷にtetsuの長い指が触れた。
hydeは驚いて目を見開いた。何故自我がないのに動ける・・・・・・・・・?
「tetsu?」
訝しげなhydeの声に答えたのは、柔らかい女性の声だった。
『なんて酷い傷なの・・・。
痛かったでしょう?
辛かったでしょう?
寂しかったでしょう?
一体どれ程の時を独りきりで過ごしていたのかしら?
可哀想なhyde・・・・・・』
悲痛に顔を歪めて、tetsuはhydeの頬を両手で包んだ。だが、その声はやはり女性の物
だ 。
訳が解らず混乱していたhydeだが、はっと気付いて目を丸くした。
「その声・・・・母様・・・・?」
恐る恐る、自分の頬に触れている手に触れる。
だが、もうそこには抜け殻のようなtetsuが立っているだけだった。
「まさかな・・・・?」
hydeが消えいりそうな声で呟いた、その刹那。
「「ご主人様」」
蝶と愛羅の、冷たく落ち着いた声が響いた。
「お客様方が」
「客室から出て行かれたようです」
「・・・・ふうん、やっぱり邪魔する気なんだ・・・・」
冷静さを取り戻したhydeは少しだけ悩むような素振りを見せて、
「・・・いいや。蝶、愛羅、三人をここまで案内してあげて?」
「「かしこまりました」」


二人の静かな足音が遠ざかって行く。
それを頭の隅で感じながら、hydeはtetsuの顔を覗き込んだ。
「・・・・さっきのは・・・何だったんだ・・・?」
答えが返ってくる事はない。
ただはっきりと解っているのは、tetsuの中に『誰か』が居る事。
「・・・・・・解らない」
解らない。
解らない。何も。彼についての何もかも。
そう。
自分は彼の事を何一つ知らない。
いっそ全てを奪ってしまえば、何も気にする事は無いのかもしれない。
そう思って、hydeはゆっくりと、tetsuの首筋に赤い唇を寄せた――――


窓の外、深紅の薔薇が咲き始めていた。


      風に乗って 薔薇の花が舞う

      ばらばらに 散らばる花びら

      雫は 紅

      色褪せる事を知らない

      鮮やかな

      俺の涙と あなたの血

      そして この手に残るのは

      温かくも優しい光か 永遠に従属する闇か・・・・・・・




2498 第六章 「血色の薔薇」 2001/12/30(Sun)17:46- 風城空牙 - 15954 hit(s)
少しずつ 月が堕ちて行く
もうすぐ 見えなくなる
薄れていく 降り注ぐ白い光
その輝きに濡れて
血色の薔薇が 咲き乱れて・・・・・・




「あれ?」
客室を出て城内を探索している途中。
ふいに窓の外へ目をやった星夜が立ち止まった。
「なんや?」
「どうしたの?」
先を歩いていたkenとyukihiroが引き返してくる。
「うん・・・あのさ、来た時って、薔薇なんか咲いてたっけ?」
「はぁ?」
「薔薇・・・・っていうか、花なんか無かったでしょ?」
二人とも怪訝そうに言う。
「そうだよね。だけど・・・ほら」
星夜が窓の外を指差したのに倣って、kenとyukihiroは窓を押し開けて外を見た。
瞬間、息を呑む。
「な・・・・!?」

荒れ果てていたはずの中庭。
そこに、鮮やかな深紅の薔薇が敷き詰められていたのだ。

「ね・・?おかしいよね?こんなに沢山の薔薇・・・」
「kenちゃん、ヤバイよ」
星夜の言葉を遮って、yukihiroが低く囁く。その顔が青ざめている。
「城内の魔力が・・・・どんどん強くなってる。
でも、こんな・・・一人だけでこんなに力を使えるわけないよ。暴発する・・・」
『・・・・それは無いわ・・・・』
ふいに響いた声に、三人はばっと宙を見上げた(yukihiroが小さく悲鳴を上げたの
は誰にも聞こえなかった)
「誰やっ!?」
『・・・・早く、あの子を止めなさい。
急がないと・・・あの子も、貴方達のお友達も、戻って来れなくなってしまう・・・
・』
「え・・・!?」
『・・・・急いで・・・』
「ちょ、ちょお待ってや!!あんたは・・・」
「ken君!!」
yukihiroがしっと指を立ててkenを黙らせた、その刹那。
長い廊下の角から淡い青色の灯りが近付いて来て、
「「こちらにおいででしたか」」
二人の少女の声がぴったり重なった。
蝶と愛羅だ。
「ご主人様がお待ちしております」
「寝室の方へご案内させて頂きます」
言って蝶と愛羅は踵を返し来た道を戻り始めた。
その後を大人しく付いて行きながら、星夜は両脇の二人に小声で話し掛けた。
「ちょっとちょっと!さっきの・・・変な声によると!tetsuが凄く危ないって事
だよねっ!?」
「星夜落ち着け!まだ間に合う・・・多分」
「多分って何よkenちゃんっ!!」
「・・・・・・大丈夫。何とかなるよ」
yukihiroの確信に満ちた言葉に、星夜は目を丸くした。
「ほんと!?yukihiro君!!」
「うん・・・・ほら、俺にも一応、切り札があるじゃない」
言って、yukihiroはにっこりと笑った。
その笑みが少し怖く見えた星夜とkenだった。


「ご主人様」
「お客様方をお連れしました」
蝶と愛羅は城内でも奥まった所にある大きく重そうな扉の前で立ち止まった。
その扉を見上げて、三人は呆気に取られてしまった。
「・・・やっぱり」
「自分の部屋も」
「凄いんだね・・・」(ken・星夜・yukihiroの順で)
ぼんやりと呟いていると、
「・・・ありがとう、蝶、愛羅。入っていいよ」
中から『ご主人様』の声が返ってきた。
二人はその声に従うように扉の左右の取っ手を掴み、さほど力を入れた様子もな
く引き開けた。
中は思った以上に暗かった。灯りが殆どないのだ。
「・・・どうぞ?入っていいんだよ」
くすくす、とからかうような笑い声が小さく聞こえる。
「・・・行くで」
kenが先に歩き出した。
星夜とyukihiroも後を追って中に入る。


『hyde・・・どうして・・・』


何か聞こえた気がして振り向いた星夜の目の前で、大きな扉が音も無く閉じた。


      長い 永い時間

      止まったままだった 彼の歯車

      動き出したそれは 

      誰にも 止める事は出来ない

      回りきって 壊れてしまうまで

      終幕が近付く

      壊れるのは 彼自身かも しれないけれど・・・・・

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2507 明けまして↓ 2002/1/1(Tue)16:29- 風城空牙 - 16413 hit(s)
おめでとうございます。只今ごっきげん★な風城でっす。
え、なんでごきげんなのかって?
それはね、部屋にラルクのカレンダー&はい様のポスター(ハートに火をつけろ!とgrandcrossの時の)が飾ってあるからだ!!
あーもうし・あ・わ・せ・・・v(注:誰も訊いてないって)

無花果ちゃん>・・かっこいい?そう?わーい(何)
        え、恋しちゃう?だめだよう、はい様は私のモノよう(核爆)
        最後の、詩・・・ってゆーよりも散文だよぉ。思いつき勝負なの、あれは。
        一応話の筋に合うように頑張ってるのv
        てゆーかどうしよう!?

        >イチは空牙ちょんが大好きでッス!!^^

        見た瞬間顔から火が出ました(笑)
        ありがとう無花果ちゃん、こんなお馬鹿さんにそんな事言ってくれて。
        嬉しい・・・v(危っ)


まいちん☆>なんとなく呼び付け(こら)親しみを込めてね?
       
       アナタはひょっとしたら一番おいしい役かも。私的にね(笑)
       てっちーは、もう「彼の運命やいかに!?」って感じ(爆)
       ・・・これから書くよ。できれば今日中に載せたいにゃー(自信薄)

       あ、詩も見た?
       なんだか今「snow drop」ハマり気味。でも中古屋行ったけどシングル売ってなかったよう(涙)
       これにハマったのはPVのおかげかも?はい様が殺人級に可愛い・・v
       そいえば先日GETした「ハートに火をつけろ!」のDVDでも歌ってたなぁ。
       そっちも可愛かった。少年っぽくて(爆)
      
       あー早くライブやって欲しいね!決まったら親友を引きずってでも一緒に行くのにぃ(死)


それでは♪今年も妄想回路フル回転して行きましょうv(は?)

2514 第七章 「月が沈み日が昇る」 2002/1/2(Wed)10:42- 風城空牙 - 15971 hit(s)


これは何?
とても綺麗で とても邪悪
こんなに 禍々しいイキモノ
初めて見た――――――



「ようこそ、俺の城へ」
薄紫の空を背に優雅な礼をして、hydeは三人に微笑みかけた。
開いた窓から吹き込む風が、そっとhydeの黒い髪を揺らす。
「出迎えられなくてすまなかった。・・・俺はhyde。君達の名前は知っているよ」
言って口を閉ざす。その赤い唇は、微笑んだまま。
星夜が沈黙を破って口を開いた時、
「・・・・・あ、あの」
「ああ、もう日が昇るね」
hydeはそれを遮って窓の外へ深紅の瞳を向けた。見れば、遠くの空はもう橙色に変わっていた。
その表情がどこか悲しげで、星夜は拍子抜けしてしまった。
(この人が本当にtetsuを・・・・?)
戸惑う星夜の横で、yukihiroが口を開いた。
「hydeさん。貴方がこの城の主なら、俺達の友人がどこにいるか、知りませんか?」
「俺らはそいつを探して来たんや。解ってんなら教えてや」
kenはhydeをじっと睨みながら言った。
怒りを抑えようとする時、kenの黒い瞳は鋭くなる。相手を射抜きそうな程に。
だが、hydeは別に気にした様子もなく、窓枠に身軽に腰掛けた。
太陽が顔を出すのを横目で見ながら、少し悲しげに笑う。
「あーあ。魔法の時間も終わりだな・・・・」
「hydeさん!tetsuの居場所を知ってるんでしょ!?教えて下さい!」
星夜が叫ぶ。
hydeはゆっくりと星夜を見下ろした。
「・・・・・そうだよ。俺は知ってる。・・・呼べば来てくれるよ」
言ってhydeは小さく何か呟いた。
すると、部屋の奥の闇の中から、人影が近付いてきた。
それはhydeの目の前で止まった。
「ね?来てくれたでしょう?」
その肩に手を乗せて、くすくす、と笑う。
「・・・・・・te・・tsu・・・・?」
星夜が震えながら呼んだ。
現れたtetsuが、別人のようだったからだ。
いつもは明るく笑っているその顔も、今は虚ろで、感情を何一つ浮かべていない。
それだけで、tetsuとは思えない程に変わってしまっていたのだ。
「・・・・・・tetsu君に何かしたんだろう。妖魔」
yukihiroが低く言った。
その呼び方が気に食わなかったかのように、hydeが目を細めた。
「まぁ俺だって馬鹿じゃないから、大体の予想はつくよ。
tetsu君がおかしくなったのは五日前からだ。
夢を見たって言っていたから、そこから少しづつ呪縛の魔法でtetsu君の心を縛っていったんだろう?
そうして心のない人形に仕立てた人間を、妖魔はどうするんだっけken君」
「忘れたんかゆっきー?人形なんか飽きたら捨てちまうやろ?同じや。
コイツら妖魔は、人間を殺す事なんか何とも思ってへん!!
どうせあの姉ちゃん達もそうやって言いなりにしたんやろ!?一人じゃ何にも出来へんから!」
「黙れっ!!!」
怒りに任せたkenの言葉に耳を塞ぎながらhydeが叫んだ。
「俺は・・・そんなつもりじゃない。
tetsuは、殺したりしない。ずっと、傍に居てもらうんだ。
この眩しい光は、俺だけを照らしてればいいんだ」
「何よ、それ」
ふいに星夜が呟いた。
その栗色の大きな瞳からは、涙が流れている。
「そんなの、貴方の勝手じゃない!
tetsuの事なんて、これっぽっちも考えてないじゃない!蝶さんや愛羅さんだってっ・・・・・・・!
三人とも生きてるのよ!?貴方の操り人形じゃない!!そんな事する権利なんか、貴方に・・・ううん、誰にも無いんだからっ!!」
「・・・・・煩いわ。お前達に、俺の苦しみが解るんか?」
ボッ、と音を立てて青い炎が燃え上がった。
「気が狂いそうなくらいの時間を独りで過ごしてた、俺の哀しみが解るって言うんか!?」
無数に灯った憎しみの火に青白く照らし出されたhydeの瞳から、涙が零れた。
その赤い瞳が溶け出したかのような、真っ赤な涙。
「星夜。お前の言葉を借りればなぁ、俺やって生きてんのや!もう人間やないけど、それでも生きてんのや。
なのに、なんで幸せになろうとしたらダメやの?独りはイヤやって思って、誰かに一緒に居て欲しいって望む事が、何でダメやの?」
整った顔を哀しみで歪めてか細く叫ぶhydeに、星夜もkenも言い返せない。
ただ、yukihiroだけがhydeをじっと見つめていた。
その冷たい瞳に浮かんでいるのは、憐れみ。
「そうだね。貴方だって生きている。それは解るよ。魔獣だってなんだって生き物だから。
けど、貴方の言う幸せは、他人を不幸にしてしか得られない物でしょ?
それを正当化しようとするのはおかしいんじゃない?」
「・・・・それでもっ、俺はtetsuと一緒に居たい。ずうっと待って、待ち続けて、やっと手に入れた光なんや。
絶対離さへん・・・・・・・yukihiro、お前の神術なんかに屈する気もないで」
tetsuにしがみ付きながら三人を睨んでいるhydeの言葉に少し驚いて、
「何だ、お見通し?」
yukihiroは呟いた。
「・・・・このワガママな兄ちゃん、どうしたろかなぁ、ゆっきー?」
ふいにkenが言った。
さっきよりは落ち着いた風だが、目が据わっている。
「どうしようねぇ、kenちゃん?」
応じるyukihiroの目も据わっている。
星夜だけが
「何?何するのよ!」
と囁いている。
そんな星夜の頭をぽんぽんと撫で、kenが動いた。
「お仕置きや・・・」
『お待ちなさい』
ふいに窓から強く冷たい風が吹き込んで、部屋中の火が掻き消え、室内が暗闇に閉ざされる。
風に乗って、中庭に咲いていた薔薇の匂いが吹き込んでくる。
「その声・・・・まさかっ!?」
hydeの慌てたような声が聞こえて、新しい火が灯った。
禍々しい、血色の炎が。
『・・・諦めなさいhyde。満月が消えた今、貴方に勝ち目は無いわ』
その言葉に窓を振り返ったhydeの目に映ったのは、顔を出し切った太陽の白い輝きだった。


      静かなる宴は 幕を閉じ

      後に残るのは 

      深い悲しみと
 
      流れた涙の

      赤い痕・・・・・・・・・


2518 第八章 「求める理由」 2002/1/3(Thu)11:39- 風城空牙 - 16375 hit(s)
広い部屋に、よく通る女の声が響く。
『hyde。まさか妾を忘れた、なんて言わないでしょうね?』
「まさか。俺が貴女を忘れるわけ無い。・・・・・・いや、忘れられるはず無い!!」
叫んでhydeは宙を睨んだ。
そこには赤い炎に照らされながら、薄紅色の霧のようなものが漂っていた。
「・・・・・折角あの時殺してやったのに、何で蘇ったんや。義母様」
弱々しいhydeの言葉に、ほほほ、と高い笑い声が答える。
『だって、hyde。妾が貴方になど殺されるわけがないでしょう。いくら魔力が弱っていてもね。
貴方はあれで妾を殺したつもりだったんでしょうけど』
言い終わると同時、霧が完全に人の形を取って床に舞い降りた。
そこに立っているのは、どこか儚げな美しい女性。
風になびく長い黒髪、白すぎる肌、身に纏った薄紅色のワンピースに包まれた細い身体。
澄んだ瞳はhydeと同じ血の色に輝いている。同じ、妖魔の証。
『けれど、さすがの妾でもすぐには蘇れなかった。貴方が妾の身体を骨も残らぬように焼き払ってくれたおかげで』
舞はゆっくりとhydeに歩み寄っていく。
『だから妾は時を待つ事にしたの。多くの魔力が集まるこの時を。
貴方がいずれ暴走する事は、一緒に居た五年程の間で良く解っていた事だから。
・・・・貴方は優しすぎた。妾と同じ、妖魔であるには、余りに優しく脆かった。
解っていたのに、深い傷を負った貴方の心が病んで行くのを、妾は見ている事しかできなかった・・・・・』
「触るな」
頬を舞の白い手に撫でられ、hydeは低く囁いた。
だが舞は気にする事無くhydeの頬を両手で包み込んだ。
『だから、これはその償い。貴方を壊してしまった償い。
貴方が自分の魔力に呑まれてしまわないように、貴方を止める為に。
妾はその為に、ずっとあの写真に魂を宿して生き長らえていた・・・・もう燃やされてしまったけれど。
そこで、哀しみに犯されていく貴方をずっと見ていたのです』
「触るな!!舞!!」
hydeは叫ぶと同時、舞に向けて青い炎を放った。
が、それに包まれた瞬間、舞の身体は霧散し、空中でまた人型を取った。
茫然と自分を見上げるhydeを微笑みながら見下ろし、
『無駄よ。今の妾には実体が無いのだもの。だから、どんな強力な魔法も効かないわ』
悠然と舞は言った。
ふと、その視線がhydeの後ろに立ち尽くしているtetsuに留まった。
『・・・・・ねぇ、hyde。あれだけ求めていたモノが手に入ったのに、何故貴方は彼の血を吸わなかったの?』

「――そうだっ、tetsu!!」
後ろの方でただ見ているだけだった星夜が、舞の一言ではっと叫んだ。
視力が自慢の栗色の瞳でtetsuをじっと見る。
別に外傷は無い。顔色も悪くない。
虚ろで何も映していない瞳も、生来の黒色のままだ。
だが、その首筋には浅い傷跡がある――――

『どうして?一度噛み付いたなら、躊躇う必要は無いでしょう?』
舞は不思議そうな顔をしてhydeを見下ろしている。
「・・っくく・・・・」
ふいに、hydeが押し殺した笑い声を漏らした。
肩を震わせて、喉の奥で笑っている。
『・・・・・・・何がおかしいの』
「・・・だって、なぁ。自分、一生解らへんような事を訊いて来るから」
言って、また笑う。
舞は不快そうに眉を顰め、
『黙りなさいhyde』
抑えた声で静かに命令した。
だがhydeは何も言われなかったと言わんばかりに笑い続ける。その声が次第に大きくなって、
『黙りなさい!!』
舞が耐え切れずに怒鳴った。
その顔をちらりと上目遣いに見上げて、hydeは髪を掻き揚げながら言った。
「・・・我等魔族は影の種族・・・・」
『え?』
「光の種族、即ち人間を食す事で生き延びている食人種」
「hydeさん、何を言ってるの・・・・?」
誰に聞かせるでもなく言葉を紡ぐhydeを見つめながら、星夜が言った。
「あれは・・・・妖魔の言い伝えだよ」
答えたのはyukihiroだ。
「なんや?言い伝えって」
kenもyukihiroを見たが、yukihiroは黙って、と口に指を当てて答えてはくれなかった。
「何種もの魔族の中でも最も魔力の高いとされるのが我が妖魔族。
その高い魔力は人血を飲み干す事で得られる物である・・・・・・・これを教えてくれたんは、貴女やったなぁ、舞」
hydeは薄く微笑みながら舞を見上げた。
「俺やって今は同じ妖魔なんやから、血吸わな生きていかれへん。・・・けどな」
と視線を外して、
「解ってても・・・出来へんかった。俺と同じ思い、させたくなかったんや」
hydeはtetsuを優しい目で見上げ、小さく呟いた。
「こんなに、温かくて綺麗な光を・・・・自分の手で汚すの、イヤやったから。
傍にいて貰えたらええなって、ただそう思ったんや。
tetsuの傍は、母様の傍みたいに暖かくて、幸せやから」
「・・・・母親・・・?そうか」
「な、何?yukihiro君?」
星夜は横でぶつぶつ言い始めたyukihiroに驚きつつ後ずさった。
「――――やっぱり。tetsu君とあのhydeって妖魔にはちゃんと関係があったんだ」
「関係って、どんなんや?」
「んー、簡単に言うとねken君。妖魔って殆ど不老不死じゃない」
「そうやな」
「で、今俺オリジナルの奥の手使ってみたんだけど。あの人元はこの辺りの領主の息子だったんだ」
「え!?(てゆーか『俺オリジナルの奥の手』って何yukihiro君!?)」
「なんか、あの舞って人の所為で妖魔になっちゃったらしいんだ」
「・・・・(何でそんな事解るんや・・・・)」
「その時、元々病弱だった母親が他界しちゃってるんだけど、その人は何度も生まれ変わっていたんだ。
で、今はtetsu君になってるんだよ」
「ふーん・・・・」
「・・・yukihiro君奥の手って一体・・・・」
素直に納得してしまったken&星夜だが(星夜は微妙に納得しきれていないが)、次の瞬間
「「何だって――――――っ!!?」」
と見事にハモった。

横で聞いていた舞は、妙に関心しながら
『・・・・あの子、神術使いよね』
「そうやな」
『・・・・今のって、精神感応術の応用かしら』
「そうやないの?記憶読むんはそれに似とるし」
あくまでも冷たく応対するhydeに小さく溜息を吐いて、舞は腕組みしながら言った。
『・・・・で?hyde、貴方はその少年が母君の生まれ変わりだと知って手に入れようとしたのかしら』
hydeは思いっきり首を振った。
「ううん、知らへんかった」
『・・・・じゃあ何故?』
舞は顔をひくつかせてもう一度訊いた。
hydeは少し唇を尖らせて言った。
「さっきから言ってるやんか。ずっと待ってた光が見えたから呼んだんや」


      あなたの光で

      俺を 照らして欲しかった

      あなたに 俺の傍に

      一緒に居て欲しかった それだけ

      でも

      このまま 共に在る事が

      赦されないとしたら

      俺は 

      また独りなんだ・・・・・・



2519 第九章 「抑え切れない力」 2002/1/4(Fri)09:34- 風城空牙 - 16298 hit(s)


俺は 独りは嫌い
こんな 暗い場所も嫌い
だから 相容れぬ物だと 解っていても
眩しい光に 焦がれた・・・・・・



・・・・どくん・・・・・・

「hydeさん、tetsuを元に戻して!!」

・・・・どくん・・・・・・

「イヤや。そんな事したら、三人ともtetsuを連れてすぐ逃げる気やろ」

・・・・どくんっ・・・・・

「それが解ってんのにっ・・・・」
「hydeさんっ!?」
急に胸を抑えて床に崩れ落ちたhydeに星夜は駆け寄った。
「hydeさん?大丈夫!?」
星夜の声も、カタカタ震えているhydeには聞こえていないようだった。
緋色の目が、ただ大きく見開かれて、何も無い虚空を映している。
白い肌にじっとりと汗が浮かんで、呼吸の音さえ痛く響く。
『・・・・魔力を抑えきれなくなったのだわ』
hydeの傍に降りて来た舞が、冷静に言った。
『自分の限界以上の力を扱おうとするからこうなるのよ?』
「・・・・っるさいわ・・・・くっ」
舞をじっと睨み上げてhydeは掠れた声を押し出した。
「・・・なぁ、あんまりゆっくりしてる暇、ないんとちゃうか?」
「このままだと本当に魔力が暴走するよ」
kenとyukihiroが辺りを見回して言った。
hydeの力のバランスが崩れて、何時の間にか五人は赤い炎を打ち消して燃え上がった青い炎に囲まれていた。
「妖魔。この火、早う消せや」
「・・・うるさいって・・・言うてるやろ。それにっ、俺には・・・名前が、あるわ」
溢れ出しそうな力を必死に抑えながら、hydeはkenを睨みつけた。
「俺やって・・・そうしたい、これ以上は限界や。
けど、集まった魔力は・・・・簡単には消えないんや」
「じゃあどないするんや!?」
『・・・その為に妾が居るのよ』
すいっとkenの横に浮かんで、舞はにっこりと微笑んだ。
『hyde。貴方の魔力・・・・妾が頂くわ』
言って、舞は細い両腕を左右に広げた。
その刹那、暗かった部屋が真っ白な光に満ちた。


hydeは光の中で意識を手放した。


「・・・・・何?何が起こったの?」
瞼を閉じてもなお眩しかった強い光の所為で痛む両目を押さえながら、星夜が言った。
目隠し状態で歩き出そうとして、
「痛っ」
何かに躓いた。
「何すんのや!前見て歩け星夜!」
「あ、ご、ごめんkenちゃん」
「大丈夫?星夜ちゃん、目を見せて」
yukihiroに言われて、星夜は両手をそっと離した。
すると、温かい黄緑色の光が目の前を包んで、痛みが無くなった。
「・・はい。もう大丈夫だよ」
「本当、痛くないよ!ありがとうyukihiro君!・・・今のも神術?」
「そうだよ」
「便利やなぁ、神術って。ゆっきー、今度俺にも教えてや」
「それは無理だよken君。君には資質って物が無いなってこの間父さんに言われたじゃない」
「あ゛――――っ!そやった!」
悔しげに叫ぶken、その背後にゆらっと人影が立った。
「お話はもう終わりかしら?」
「あれ?・・・・舞・・・さん?」

そこに立っていたのは、実体に戻った舞だった。

身体を取り戻した舞は柔らかく微笑んでいた。
衣服や髪に小さな薔薇を飾っているその姿は、どこか少女めいて可愛らしい。
「hydeの魔力が思っていたより強かったけれど、何とかなって良かった。
そのおかげで妾も実体を取り戻せたのだもの」
言いながら舞は長い黒髪を無造作に編み始めた。
「残る問題は・・・・」
「どうやってあの頑固者にtetsu君を元に戻させるか」
「やな」
「・・って、hydeさんはっ!?」
星夜はばっと立ち上がると、大きなベッドの前の辺りに向かった。
案の定、hydeはそこに倒れこんでいたが。
「・・・・tetsu?何してるの?」
星夜が驚いたのは、hydeの頭をtetsuが優しく撫でているのを見たからだ。
『・・・・・・・・可哀想なhyde。
私がもっと強い女であれば、この子にこんな思いはさせずに済んだのに。
私が遺して逝かなければ、この子は人のままでいられたのに・・・・・・』
tetsuの口から出て来た声が女性の物だったので、星夜はさらに驚いて目を丸くした。
「てっ、tetsu――――っ!!!どうしちゃったの――――!!?」
取り乱す星夜にひたと視線を向けて、tetsuは静かに言った。
『お嬢さん、私は貴女の知っているtetsuではないのです。
私は、ずっと昔にこの樹海で骸となった・・・この子の母』
「はは!?」
『ええ。
私はあれから何度も転生を繰り返していました。
今またこうしてこの子を撫でてあげられるなんて、夢のようです・・・・・』
そう言ってhydeを見つめるtetsuの目は、確かに優しい母親のそれに似ていた。
『・・・もう、この子は大丈夫。貴女達の言葉で、hydeの心を開いてあげて下さい』
「・・・・って、tetsu!!」
すうっと目を閉じたかとおもったらいきなり倒れたtetsuに、またも星夜は驚かされた。

その時、星夜は気付かなかった。
hydeの閉じられた瞳から、一滴だけ涙が零れた事に。

『母様・・・・・・・』


       温かい光 

       遠退いて行く光

       逝かないで

       俺を

       ひとりにしないで・・・・・




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2547 わーい \(^〇^)/ 2002/1/8(Tue)19:12- 風城空牙 - 15801 hit(s)
こんばんわ、風城です。
皆感想ありがとねぃ!


愛羅様>本当に久し振りですね★
     メイドさん気に入ってくれたみたいで一安心v
     素敵なお話?ありがとぉv嬉しいー!!
     はい様・・・よりまずてっちーをどうしようってのがオイラの頭には在る(爆)
     その場その場で書くと皆しゃん勝手に暴走してくれちゃって困る(死亡)


hana様>な、泣きそう?そんな・・・・勿体無いくらいのお言葉で(汗)
     専門用語なんて、知ったかぶって色々戯言言ってるだけですわっ(逃)
     はい!これからも頑張りましゅ★


美月星夜様>切ないですかー?うふふふふ(何)
       はい様、優し過ぎて傷ついちゃった、て感じ。
       だからこそ、自分の想いを満たす為に誰かを犠牲にする事は出来ないんだよねぇ・・・・。
       あ、ネタバラシ・・・・・・? 

      
学校始まっちゃったね。でも更新頑張るよー♪
とりあえず週二回を目指します(爆)


2554 第十章 「眠れる森の――」 2002/1/9(Wed)18:51- 風城空牙 - 15795 hit(s)
『なんや・・・・この感じ』
tetsuは、自分の全身を包む温かい光を感じて、指先を僅かに動かした。
「あっ、動いた!」
『・・・・星夜?もう朝なんか・・・・』
すぐ傍で聞こえた星夜の声に、ゆっくりと目を開ける。
そこに映るのは、見覚えの無い高すぎる天井。
「・・・・ここ、どこや」
混乱して、思わず声に出して言う。
「あ――――っ!!気が付いたぁっv」
星夜がtetsuの顔を覗き込んで、嬉しそうに笑いながら視界から消えていく。
『待ってや・・・・星夜、置いてかんといて!』
不安になって起き上がろうとしたが、
「っ痛ぅ・・・・!!」
首筋に走った激痛に、顔を顰めてまた倒れ込む。
そして少しずつ思い出す。
『俺は、あのひとに呼ばれてここに来たんやった。けど・・・・何で星夜が居るんや?
って事はつまりkenちゃんとゆっきーも一緒に居るんやろか?』
なかなか引かない痛みにうんざりしながら考えを巡らせるtetsuに、唐突に真横から声が掛けられた。
「無理に起きようとしては駄目です。この術は本当なら術者でないと解く事は出来ない物。
それを無理矢理解いたのだから、不具合があっても仕方が無いわ。
傷口も、無理に塞いだからしばらくは痛むだろうけど・・・我慢してね」
聞き覚えの無い、穏やかな女の声に顔を横へ向けると、長い黒髪を綺麗に結い上げた美しい女性がやんわりと微笑んでいた。
彼女の赤い瞳をじっと見つめたtetsuの脳裏に、子供みたいに泣きじゃくって、今にも壊れてしまいそうだった綺麗なひとが浮かんだ。
「・・・・あのひと、は?どないしたんや?」
今度はゆっくりと起き上がって、tetsuは周囲を見渡しながら訊ねた。
tetsuが寝かされていたのは広い客室だった。
星夜は部屋を出て行ったのだろう、分厚い白木の扉が開けっ放しになっていた。kenとyukihiroもいない。
『探しに行ったんかなぁ・・・?』
もう一度tetsuが女性を見ると、彼女はまた笑って、
「あのひと、とはhydeの事ね?tetsuさん」
「へっ!?おねーさん、何で俺の名前知ってんのや?」
目を丸くして自分を見つめるtetsuに、彼女もまた目を丸くしてあら、と口元を押さえた。
「そう言えば、貴方はまだ妾の名前を知らないのだったわ。失礼だったわね?ごめんなさい。
妾は舞。hydeの・・・義理の、母親。貴方の事は星夜さん達に聞かされたのよ」
それを聞いて、tetsuは思いっきり納得した。
『星夜が居るならkenちゃんもゆっきーも大丈夫なはずやし、俺の名前をこの人が知っとっても全然不思議やないんやな。
けど、何で付いて来たんやあいつら!俺はちゃんと付いて来んなって言うたったんに・・・』
「って、舞さん、あのひとはどないしたんや?ここには居らんみたいやけど・・・・」
またきょろきょろと室内を見渡す。
そんなtetsuを見つめて、舞はちょっとだけ表情を曇らせた。
「hydeはね・・・・長い間、無理をし過ぎていたの。
いつ狂いだしてもおかしくは無かったのに、必死に精神を繋ぎ止めて、貴方の事を待っていた。
おかげで、彼は傷つき、疲れ果ててしまったの、心も身体も。
だからかどうかははっきり解らないのだけど・・・目を、覚まさないの。丸一日、眠ったままなの・・・・・ちょっと!tetsuさん!?」
tetsuは、舞の言葉を最後まで聞く事なく部屋を飛び出した。


不思議と、tetsuは広い城内で迷わずにhydeの寝室へと辿り着けた。まるで、何かに導かれているみたいに。
「やっぱり、あのひとはまだ・・・俺を呼んでくれとんのやろか・・・?」
呟いて、重そうな大きな扉に手を掛け、ぐっと引っ張る。
「・・?何や。この扉、全然重くないやんか・・・ってうわぁ!!」
中に入ろうとした途端目の前に人影が二つ並んで、tetsuは悲鳴を上げた。
「あーびっくりしたー・・・って、あんたらは確か・・・・俺をここに連れて来た二人組やん」
tetsuの前に立ち塞がったのは、蝶と愛羅だった。
「失礼致しましたtetsu様」
「お身体はもう大丈夫なのですか」
極めて事務的な口調で応対しながら、二人の少女はtetsuの前に道を開けた。
「只今ご主人様は体調が優れません」
「お静かに願います」
そう言ってtetsuを見る二人の目は、心から主人を案じているのだと良く解る、悲痛な色をしていた。
tetsuは二人に向けて優しく微笑んで、
「解ってる。悪いけど、ちょっと二人だけにしてもらえるか?」


「え――っ!?舞さんどーしてtetsuを止めてくれなかったんですかぁっ!?」
「・・・ええから落ち着きや星夜。みっともない」
「どうせ行き先は解ってるんだから、追いかければ良いだけじゃない」
三人三様に声を張り上げている様を見て、舞は込み上げて来る笑いを堪えるのに必死だった。
が、やはりやり慣れない事なのでその我慢も大して長くは続かなかった。
「・・・ふふ、うふふふふ」
ふいに舞が笑い出したので、三人はぱっと舞を見つめた。
「ふふふ、あははははは」
子供のように笑い転げる舞に、三人は呆気に取られた。
「はは・・・ごめんなさい、貴方達、子供みたいなんだもの・・・・ふふふ」
目尻に浮いた涙を細い指で拭う舞を見て、三人は顔を見合わせた。


「hyde、さん。・・・・別に聞こえてへんでもええねん。俺は独り言言うてるだけやからな?」
深紅の絹に埋もれて眠るhydeは人形めいていて、tetsuに子供の頃に読んだ童話に出てきた、眠ったまま百年の時を過ごしたという架空の大国の姫君を思い出させた。
「俺は、貴方の事、凄く懐かしく感じるんやけど・・・・何でか、よく解らへんのや。貴方には解るんかなぁ?」
じっと見ていても、hydeが目を開く気配は無い。
「・・・・あの話、王子様はどうやってお姫様を起こしたったんやっけな・・・」
何となく口に出してみたが、本当は、今だにはっきりと覚えている。

『王子様は、美しいお姫様に口付けを贈り、悪い魔法を解いて、起こしてあげました』

客室よりもずっと高い天井を仰いで、tetsuは目を押さえた。
「・・・何なんや」
強く押し付けたその手の間から、透明な雫がぽろぽろと零れ落ちる。
「何で、こんな胸が痛いねん?」
hyde。
hyde。
聞いた事なんかない、ましてや呼んだ事なんかある訳ない。
なのに、何よりも懐かしい言葉。名前。
逢いたいと望み続けていたから?それだけ?
・・・・違う。
「なんや、解らへんけど・・・・どっかで繋がっとるんやね?俺と・・・hydeは」
hydeの顔を穏やかな、慈しむような目で見、tetsuは静かに言葉を紡ぐ。
「早く起きてや。一杯聞きたい事あるねんから・・・・・」
tetsuは、hydeの小さな手をきゅっと握って目を閉じた。

窓辺に飾られた赤い薔薇が、風に吹かれて儚く揺れた。


      窓の外 通り過ぎて行く

      透明な風

      それは 次に誰を訪ねるのかな

      優しく揺れて

      遠くまで 知らない場所まで

      空を渡って行くのかな・・・・・・・・




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2559 第十一章 「その感情の名前」 2002/1/10(Thu)18:28- 風城空牙 - 16563 hit(s)
遠ざかる光 膨張していく不安
暗闇の中 俺の鼓動は 
不気味に歪んで 幾重にも重なり合って
なかなか途切れず 響いている・・・・・・



「・・・・・ん」
甘い薔薇の香りに鼻腔をくすぐられ、hydeは重い瞼を開けた。
「もう・・・朝なんか・・・?」
まだ眠い、と寝返りをうって、再び目を閉じる。
と、誰かの気配を感じた。
びくっと身を竦ませ、hydeはそおっと顔を上げた。
「・・・・・・・tetsu?」
目を見開いているhydeの目の前で、tetsuが穏やかな寝息を立てていた。
「・・・・・何で・・・ここに居るん?」
訊ねてみても、tetsuは熟睡しているようで、答えは返ってこなかった。
tetsuの寝顔が、安心しきって眠る子供のそれのようにあどけなくて、hydeはふ、と微笑んだ。
その視線が、tetsuの首筋に留まった。
「何や・・・舞がやったんか」
自分のつけた傷が塞がっているのを見て、hydeはtetsuがここに居る理由を知った。
それに、他者のかけた魔法を解くという高度な技量と強力な魔力を必要とする事を成し遂げられる人物は、舞ぐらいしか居ない。少なくとも、hydeの知る範囲では。
「余計な事してくれたなぁ」
そう言いながらも、hydeの顔は優しく笑っていた。
「・・・ごめんな、tetsu」
言って、ベッドから降りようとした時。
hydeは、tetsuが自分の手を掴んでいる事に気付いた。
「手、握ってて・・・・くれたんか?tetsu」
空いている方の手で、そっとtetsuの頬を撫でる。そこは、彼の手と同じ温かさをしていた。
その温かさが、自分の冷たい手を優しく包んでいる。
温もりとか、そういう大事な物全部忘れてしまった自分の心を、包んでくれている。
hydeにはそう思えた。
「・・・あれ?」
視界が滲んで、hydeはごしごしと目を擦った。
「何?何で?」
擦っても擦っても、視界は晴れることなく滲んで歪む。
やがて、hydeの目から涙が落ちた。ぽろぽろと、赤い宝石かなにかのように綺麗な雫が零れた。
けれど、どうして涙が出るのか、hydeには解らなかった。
「・・・・・tetsu、おかしいわ。
涙が、悲しくないのに、痛いところもないのに出てくんのや。止まらへんのや、tetsu。・・・・・何でなんや?」
両手で必死に溢れる涙を拭いながら、hydeは嗚咽まじりにか細く言った。
広い部屋に、hydeの泣き声だけが響く。
その、少しの間の後。
「本当に、どこも痛くないんか?」
優しい声音の問い掛けに、hydeはふるふると首を振った。
「じゃあ、どこが痛い?」
「・・・・胸が、痛い。こころがいたい」
顔を抑えているから、hydeの声はくぐもっていて聞き取り難い。
「かなしくないのに、けがしてないのに、なみだがでるなんて。
おれはこんなきもち、しらない。こんなきもち、なったことないもん。なあ、これはなんていうきもちなんや?」
子供のように泣きじゃくりながら尋ねるhydeに、優しい声は告げた。
「それはな、『嬉しい』って気持ちや。涙はな、悲しい時とか、身体が痛い時だけやのうて、嬉しい時にも出るんやで。・・・覚えとき、hyde」
呼ばれて顔を上げたhydeの前で、起き上がったtetsuが微笑んでいた。


      その 包み込むような優しい笑顔
      
      俺の名を呼ぶ 優しい声

      これが 本当に欲しかった物 望んだもの

      やっと見つけたんだ・・・・
      
      それだけで 世界が変わる

      古い世界が 音を立てて崩れ去る
      
      その騒音の中で 小さな儚い音が響いた
      
      心の氷が 砕けた音が・・・・・・・



2560 続・ねぇねぇ。 2002/1/10(Thu)18:43- 風城空牙 - 16539 hit(s)
拝啓 愛羅様。
あは、やっぱりヤバイですね。てか感情面ではもう、どっちもどっちでヤバイです、はい。
どこまで行けるか、このままほっといてみる?(くす)

私的、愛羅様のお話はこのままの微妙な状態が続く方が楽しい(は?)
しかし。それでもどこかで確実に手篭にされますねはいちゃんは。ベリアルさん隙あらば手を出そうとしてそう(爆)
白状しちゃうと私はそっち方面かなり好きれす(ヲイ)
あと、

>二人でやろっか?(をぃをぃ)

とのことですが。私は全然おっけー(核爆)
友人いわく「無敵に腐った脳を持った腐女子」ですから。へへん(注:イバる事でわない)
でも18禁ってつく程のモノは書けない。私まだなってないしィ。
ホムペでも色々やってるけど中途半端中途半端。要精進(え゛)


あああ、何か色々スゴイ事書いた気がして来た・・・・(汗)
てか、悪ノリしすぎ!ごめんちゃい m(_ _)m



2566 第十二章 「覚醒を待つ心」 2002/1/13(Sun)08:12- 風城空牙 - 16253 hit(s)


「落ち着いた?」
tetsuは優しく言った。
けれど、その肩にしがみ付いて泣きじゃくっているhydeはぶんぶんと首を振り、
「まだっ。まだまだやぁっ」
と手にさらに力を込めた。
子供、それも駄々っ子のようなhydeに、tetsuはふっと微笑んだ。
それに気付かず、hydeは嗚咽混じりにか細く言った。
「このまま、離さんといて。ずっと、ずぅっと傍に居って」
お願い、と潤んだ赤い瞳に上目遣いに見つめられて、tetsuはhydeを言いようのないくらいに愛しいと感じた。
「・・・・解った」
そしてそれほど長身でも逞しくもない自分より、さらに小柄で細い身体を優しく抱き締め、
「解ったから、泣いててええよ。絶対、離さへんから・・・」
穏やかに言い聞かせた。
眠れないと泣く子供を、あやすように・・・・・・・・。


「ほらkenちゃん、yukihiro君!tetsuを追い掛けるよ!」
言って星夜は客室を飛び出そうとして、
「ちょっとお待ちなさい」
「ぐえっ」
さりげなく舞に服の襟元を掴まれ、情けない鳴き声を出してしまった。
「ちょ、舞!」
「星夜ちゃんが死ぬ!」
慌てるkenとyukihiro。と、それに構わず星夜を引きずって椅子に座らせる舞。
「っゴホゴホ、ちょっと何するんですか舞さんっ、ゲホッ」
喉元を押さえて、涙目で訴える星夜に、舞はにやりと人の悪い笑みを浮かべた。
「今行っても、邪魔やーって追い返されるだけですわ。妾がhydeが寝たきりだって言った時のtetsuさんの顔、凄かったもの」
あっと言う間に出て行ってしまったし、と付け加えて、舞はころころと笑った。
「そんな事言ったってぇ・・・・(舞さんってこんな凶悪な人だったかしら?)」
机に突っ伏して唸る星夜。
そこに、kenとyukihiroが助け舟を出す。
「ま、星夜の気持ちも解るで」
「tetsu君だって起きたばかりだしね」
二人に言われて、星夜も少し落ち着いたようだ。
ゆっくりと顔を上げる星夜を見て、舞がふと思い出したように口を開いた。
「そう言えば、あの女の子達はどこに行ったのかしら」


女の子達、というのは勿論蝶と愛羅の事で、二人はhydeの寝室の前で人形のように真直ぐに立っていた。
お互いに、何も言わず、何もしない。
二人の共通点はhyde――主人への絶対の忠誠。
そのhydeの客人であるtetsuが出て行けと言えば、それは主人の言葉と同じで絶対的な命令だ。
逆らう事は許されない。
否、逆らう、などと考える事もない。
自我が無いのだから。
ただ、hyde自身の心が変わり始めた所為で、二人への支配も弱まり始めていた。
それを表すかのように、蝶がぽつりと呟いた。

「・・・・愛羅、あたし、帰りたい・・・・」

「・・・・私も、帰りたいわ、蝶・・・・」

蝶の言葉に触発されたように、愛羅も小さく呟く。
だがそれも一瞬の事で、一度口を閉ざした二人がまた言葉を放つ事は無かった。


      囚われの人形

      その心が

      目覚め始めた

      彼の心の変化に 呼応するように・・・・ 

2567 削除
2568 幕間 「笑顔」 2002/1/13(Sun)08:21- 風城空牙 - 16040 hit(s)
このまま 捕まえていていいですか?
離さなくても いいですか?
できる事なら
赦されるなら
あなたと二人 
永遠に――――――――



「・・・hyde、て呼んでええ?」
「・・・ええよ」
空高く上がった太陽の光が、眩しく窓辺に降り注ぐ。
その白い光に照らされて、hydeの白い肌が一層白く見える。
風に散らされた黒い髪が、その頭に置かれたtetsuの手をくすぐっていく。
hydeはtetsuの膝の上が気に入ってしまったらしく、そこから動こうとしなかった。
その白い頬にはうっすらと赤い痕がついている。涙の伝った痕だ。
hydeはtetsuの長い指をしっかりと掴んでいた。
ちゃんと掴んでいないと消えてしまいそうで不安らしい。
それを聞いて、tetsuは思わず
「何や、思ったよりもずっと子供じみてるんやね」
と言ってしまった。
hydeは顔を真赤にして、何か言おうと口をぱくぱくさせたけれど、結局何も言わずに大人しくしていた。
「・・・tetsu」
「ん?何?」
呼ばれて見下ろすと、冷たい両手に顔を包まれ、ぴたっと目が合う。
hydeの瞳は深い渕のようだとtetsuは思う。暗いくらい深淵。底の見えない湖。ただ、そこに漂う水は鮮やかな赤色をしているけれど・・・・・。
「な、やっぱり・・・帰りたい?」
少し震えた声で、hydeが囁く。
「tetsuは、皆の所に帰りたいんか?」
不安そうに揺れる瞳を覗き込んで、tetsuは薄く笑った。
「・・・一緒に居るよ。離さへんって、言うたやんか」
言いながらhydeの手を取って、その甲に口付ける。冷たい感触。切ないくらいに。
「・・・・tetsuの唇は、温かいなぁ」
「は!?」
苦笑混じりに言われた言葉に、tetsuの顔が真赤になった。
「・・・・イキナリ何を言い出すんや」
軽くhydeを睨みつけて低く言う。
hydeは悪びれた様子もなく、クスクス笑った。
「なんか、心の奥がほわってするねん。そうやって、手ぇ握って貰ってるだけでも、温かくなんねん」
言って、hydeはむくっと起き上がった。
じぃっとtetsuの可愛らしい顔を覗き込む。
「な、何・・・・?」
大きな赤い瞳に映った自分と目が合って、tetsuは妙な気分になりながら引きつった笑みを浮かべた。
「・・・・・ね、tetsu」
「はいっ!?」
「何でそんなビビるねん自分・・・・」
オーバーリアクションをしたtetsuに、ちょっと傷付くわぁ、と呟いて、hydeが下を向く。
それが何だか可愛くて、tetsuは慌てた。
「ご、ごめんなhyde!泣かんといて・・・」
「・・・・泣いてへんよ?」
必死に慰めようとしたtetsuの顔を上目遣いに見ながら、hydeは引っかかったぁ、と赤い舌を出した。
そして騙されたぁ、と沈むtetsu(笑)
それを見て、hydeは楽しそうに声を出して笑った。無邪気な子供のような笑顔で。
つられてtetsuも笑った。
しばらく、二人の笑い声だけが部屋に響いた。

その時、hydeの心にあった感情は「楽しい」というものだけでは無かった。
tetsuは、気付かなかったけれど。


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2582 第十三章 「戸惑う想い」 2002/1/16(Wed)18:44- 風城空牙 - 15838 hit(s)
「な、hyde」
ぼんやりと、窓から見を乗り出して青空を眺めていたhydeに、tetsuがそっと呼びかけた。
「何?」
口元に緩く笑みを浮かべて、応える。空から視線は外さずに。
そんなhydeの華奢な背中を、tetsuが優しく包み込んだ。
「どぉしたん?」
困ったようなhydeの声に、tetsuは瞼を伏せ、静かに言った。
「俺は、ここに居るからさ。
星夜とか、kenちゃん、ゆっきーを、街まで帰してやってくれん?
それにあの二人・・・・蝶と愛羅も。元に戻して、ちゃんと自由にしたってや。何や、可哀想や。あんな人形みたいになってもうて」
お前かて望んではおらんやろ?と小さく呟いて、tetsuは薄く目を開いた。
彼の黒く純粋な瞳は、その優しさゆえに傷付いているように見えた。
その所為か、hydeは困惑した。
「tetsu・・・・ええの?ほんとにそれでええの?」
首だけ動かしてなんとかtetsuと目線を合わせる。
その口から漏れ出る言葉は、行かないで欲しいという想いとは裏腹に、まるでtetsuにここに居るな、と言っているかのようなものだった。
それに一番驚いているのは、他ならぬhyde自身。
『何で・・・?俺は、tetsuに一緒に居て欲しいはずやのに、何でこんな事言ってしまうんや?』
そんな胸中の戸惑いを見透かしたように、tetsuはふっと微笑を浮かべた。
「ええの?そんな事言うたら、俺は星夜達と一緒に帰ってまうで?」
「やっ・・・ダメ!そんなの、ダメや・・・行かんといて!!」
反射的にそう叫ぶ。
同時に、胸の奥に不安を押し込もうとした。
その刹那。
hydeの脳裏に星夜の言葉が蘇った。

「そんなの、貴方の勝手じゃない!tetsuの事なんて、これっぽっちも考えてないじゃない!」

「hyde?」
腕の中で細かく震えだしたhydeに、tetsuが心配そうに声を掛けた。
だが、hydeはまるでその声が聞こえないかのように、虚空を見つめている。
いや、確かに聞こえていなかった。
tetsuの声も、風の吹く音も。
ただ、胸の内に湧き上がった疑問の答えを探していた。
『ここに居て・・・tetsuは、ほんとに幸せなんか?』
漂う沈黙を破ったのは、hydeの震える声。
「tetsu・・・・俺・・・・・」
tetsuの腕を緩く掴んで身を離すと、hydeはベッドに腰掛けた。
そのまま押し黙ってしまったhydeを、tetsuは真直ぐに見つめた。
「・・・・俺、tetsuのこと、幸せにしてあげたいねん。苦しんだりしなくていいように」
下を見たまま、ぽつぽつと言葉を紡ぐ。
「けど・・・ここに居てもらうって事は、tetsuが望んだことやなくて俺が」
「煩いわ」
静かに言って、tetsuはhydeの前に跪いた。
「いいって言うてるやんか。hydeの傍に居るのは俺が望んだ事や」
優しくあやすようなtetsuの言葉に、hydeは何も言えなくなってしまう。けれど、答えの出ない疑問と、もう一つ、湧き上がって来た思いは消えなかった。


「・・・・舞さん、あの二人どうしよう・・・」
星夜は頼り無く呟いた。
星夜、ken、yukihiro、それに舞の四人は、hydeの寝室の扉の見える所まで来ていた。
が、入り口に蝶と愛羅が立っている所為でそれ以上近付けずにいた。
「・・・なぁ、強行突破はどや?」
「ken君、あの扉をどうやって壊すのさ?」
星夜の後ろでは、kenとyukihiroが無責任かつ物騒極まりない会話を繰り広げている。
舞は舞で、
「どうしようかしらねぇ」
とかおっとりと呟いて口元を押さえている。
『もう、自分しか頼れない・・・・・』
・・・星夜はかなり追い詰められていた。
と、その時、
「・・・きゃああああああっ!!」
広い廊下に、二人の少女の甲高い悲鳴が響き渡った。




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2595 第十四章 「正反対の気持ち」 2002/1/20(Sun)11:17- 風城空牙 - 15547 hit(s)


「蝶さん、愛羅さんっ!!」
叫んで星夜が駆け出したのと、


「蝶、愛羅!?」
言ってhydeが立ち上がったのは、殆ど同時だった。


hydeが扉を開いた時、蝶と愛羅は座り込んで頭を抱えていた。
すぐ傍に星夜達四人も居た。
皆、苦しげに喘ぐ二人を心配そうに見ていた。
と、hydeに気付いた舞が口を開いた。
「hyde。この子達がどうして苦しんでいるのか、解る?」
穏やかな口調と違い、その顔には厳しい表情を浮かんでいる。
「貴方の心に変化が現れた所為よ。支配が弱まったから、閉じられた心と貴方の植え付けた忠誠心とがぶつかり合っているの。・・・・何をすれば良いか、解るわね?」
じっ、と四対の視線に見据えられて、hydeは軽く頷いて、蝶と愛羅の前にしゃがみ込んだ。
「・・・ご、しゅじ・・・さま・・・」
「あたまが・・・いたいのです・・・」
苦痛に顔を歪めて自分を見上げる少女達に、hydeは胸が痛くなるのを感じた。
『俺の、所為なんやね・・・』
「・・・蝶、愛羅、ごめんな?今、元に戻したるから」
目閉じて、と言われて二人は素直に目を閉じた。
その顔の前に手を翳して、hydeは目を伏せ口の中で呪文を唱えた。
hydeが目を開いた時、淡い青色の光が二人を包んだ。

眩しさに目を覆った星夜が手を離すと、蝶と愛羅は深紅の絨毯が敷かれた床の上に倒れていた。
「hydeさんっ!!何したんですか!?」
慌てて叫んだ星夜を、舞が横から押し留める。
「hydeは二人の支配を解いたのです。少し休めば、二人とも目を覚ますはずよ」
「それなら、二人をちゃんと寝かしとかんとな、ゆっきー」
言った時にはもう、kenは蝶を抱えていた。
その素早さに呆れて苦笑しながら、yukihiroも愛羅を抱える。
「星夜」
「ちゃんとtetsu君返してもらいなよ?」
そう囁いて、二人は客室まで戻って行った。
それを見送ってから、舞が口を開いた。
「hyde、星夜さんはね、tetsuさんを返して欲しいんですってよ?」
「はっ!?」
いきなり言われて、星夜は顔を真赤にした。
「なななななな何言ってるんですか舞さんっ!!」
「だって、帰りたいんでしょう?四人で」
舞は涼しい顔であらぬ方を見る。
「た、確かに帰りたいけど!別にそんな、返してって・・・」
必死に誤魔化そうとする星夜の耳に、ふいに笑い声が聴こえた。聴き慣れた笑い声。
「・・・・何笑ってんのよ」
見れば、tetsuが笑っていた。
その顔を見て、星夜は視界が滲むのを感じた。
「・・・tetsu。星夜、泣いてるで」
hydeに言われて、ようやくtetsuは星夜が泣いている事に気付いた。
「な、何泣いてんねん!どないした?どっか痛いんか?」
「違うよ!・・・嬉しいんだよ、バカ」
「バ、バカとは何や!可愛くないなぁ!」
そのままケンカを始めそうな二人を尻目に、舞はhydeを追って寝室に足を踏み入れた。
hydeは部屋の中程に立ち尽くしていた。
「・・・hyde」
呼んでも、返事は返ってこない。
舞は構わず続けた。
「あの子達・・・帰して、あげるんでしょう?」
背後ではtetsuと星夜がとうとう言い合いを始めた。
それをどこか遠くの出来事のように聞きながら、舞はhydeの言葉を待った。
だが、いくら待ってもhydeが口を開く事はなかった。
「・・・・・もう少しで日が沈むわ。ゆっくり考えなさい」
言って舞はhydeに背を向けた。


扉の閉まる音を聞きながら、hydeは呟いた。
「考えるまでもないやんか。帰すに決まってるやろ」

『本当はまだ迷ってる』

「ここに居ても、tetsuは幸せになんかなれへん」

『行かせたくない』

「tetsuが苦しむより、俺が悲しんだ方がええんや」

『手放したくない』

「煩い!!」
ばん、と強い衝撃と共に壁に皹が入る。
ぱらぱらと破片が舞い落ちる頃には、脳裏に響いていた言葉も聞こえなくなっていた。
「・・・もう決めたんや。迷ったりしない」
言った瞬間力が抜けて、hydeは床に座り込んだ。
身体の震えが止まらない。
今まで感じた事の無い想いが、胸の奥で渦巻いていた。
「何やの?これ・・・苦しい?違う、悲しい?・・・知らへんわ、名前・・・」

―――――泣き出しそうに弱々しい声だった。


      

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2612 遅くってごめんなさい(汗) 2002/1/27(Sun)12:45- 風城空牙 - 15426 hit(s)
お久しぶりです風城です!
気が付いたらもう一週間くらい経ってますね!?
ごめんなさい(><)


美月星夜様>はいちゃん健気?うふふ(謎)
        でもちゃんと救われる・・・と思うよ(爆)
        でもさ、お話良い?
        そゆ事言うと自惚れちゃうよ風城さんは(死亡)


蝶様>え、そのままが良かった?ごめんね(違)
     でもなんか、実物見ててもそゆ事思っちゃう時はあるなぁ(え゛)
     ところで、今なんかふっと思っちゃったんですが!
     はいちゃん下手したら二重人格になりそうだね(爆)       


hana様>え、泣けちゃう?へへへ(何)
      はいちゃんは、なんつーか純粋培養?みたいな感じ。
      ずっと樹海の中にいたわけだし。
      殆ど独りだったし。
      蝶様と愛羅ちゃん・・・・?どこに帰るんだろ(ヲイ)


久し振りなので二本ほど載せていきますね!それでは★      
 
2613 幕間 「祈りに似た言葉」 2002/1/27(Sun)12:47- 風城空牙 - 15905 hit(s)


夜空を見上げて想った 欠けた月を見て・・・
こんな気持ちになる事を
あの日の俺は
知っていたのかな・・・・・



暗い闇の中、hydeはゆっくりと窓辺に腰掛けた。
降り注ぐ月光が、その身体を白く浮かび上がらせる。
その様は、幻想的で美しい。

「・・・・イヤやなぁ、諦め悪くて」
ぽつりと呟く。
目を閉じても中々寝付けず、頭の中を駆け巡るのはたった一つの言葉だけ。

『行かないで』

短くて、とても我儘な言葉だけ。
切ないくらいの愛しさを含んだ言葉だけ。
「ダメなんや。tetsuにはいっぱい大事なモノがある。・・・俺みたいに、独りやないから」
きつく抱いた肩が震えるのは、夜風の冷たさの所為ではない。
「一緒には・・・居られへんのや・・・・」
ゆっくりと、自分に言い聞かせる。胸に広がる痛みは、きっと、ただ漠然と待っていた時よりも深い。
「・・・・誰かが、人は大事な物の分、弱くなるって言うてたなぁ」
声が震える。
「それなら、俺も・・・まだ、人って言えるんかなぁ?」

教えて
この気持ち どうしたらいいのか
胸に秘めておくには 
あまりに大きくなりすぎた想い

「俺、こんなに弱かったんやなぁ」
痛く掠れた声。
ともすれば壊れてしまいそうな小さな身体。
「・・・・tetsu・・・」

出逢わなきゃ、良かったのかな。



2614 第十五章 「迷いを捨てた胸に在るモノ」 2002/1/27(Sun)12:53- 風城空牙 - 15759 hit(s)
「hyde!!」
いきなり呼ばれて重い瞼を開けた途端、かなりの至近距離にtetsuの顔があった。
「!?」
hydeはぐぐっとtetsuの身体を押しのけつつがばっと起き上がり、
「な、なななな何!?」
真赤な顔で言った。
目を開けた瞬間に人の顔が間近にあったりしたら、hydeでなくとも驚くだろう。無理のない反応だ。
だが、tetsuにとっては少々意外な反応だった。
「・・・・へぇ。やっぱり変わらないんやね」
「何が!?」
「いや、妖魔言うても、人と同じやなぁ、って思うたんや。
そうやって、驚いたり笑うたり、泣いたり。苦しかったり、悲しかったり、嬉しかったりするやろ?」
妙に納得したような口調で言いながら無邪気に笑うtetsuに、hydeは少し救われたような気がした。

『そうやね、tetsuの言う通りかもしれへん』

声に出さずに思って、ゆっくりと起き上がる。
窓から高い太陽を見上げたその顔は、寝付く前とは違って、すっきりとしていた。


hydeは一人、長く広い廊下を歩いていた。
tetsuは中々来ないから起こしに来ただけだ、と言って客室の方に戻って行ったし、hydeには行くべき場所があった。

そうして辿り付いたのが、漆塗りの重厚な両開きの扉の前。
扉の両脇にhydeの腰程の白い台座があり、その上に薄紅色のガラスの花瓶が置かれていた。
生けられているのは、裏庭に咲き誇っているのと同じ赤い薔薇。
「・・・・元通りやな」
自分の寝室にも同じ花が生けられていたのを思い出す。
「舞、入るで」
言って、hydeは扉を押し開けた。

部屋の主、舞はhydeに向けて少し寂しげに微笑んだ。
「もう『義母様』とは呼んでくれないのね?hyde。言葉遣いも、子供の頃と同じね」
「ああ。もう、自分を造る必要、無いからな」
言ってニッと笑うと、hydeの綺麗な顔は恐れを知らない不敵な少年のそれに変わる。
その瞳に迷いがカケラも潜んでいないのを知って、舞の表情が少し、柔らかくなる。
「・・・もう、決めたのですね?」
静かな声。
問い掛けの形だが、もう全てを知っていると言わんばかりの落ち着いた響き。
「・・・ああ、決めた」
その言葉に、ゆっくりと目を伏せ、また開く。
揺らがない輝き。

「tetsuも、あの三人も、蝶と愛羅も。皆、外に出す」


「・・・ここ、どこ?」
海の色をした切れ長の瞳を瞬いて、蝶は茫然と呟いた。
寝起きとは思えないほど真直ぐな肩までの黒髪は、朝日を受けて鈍く輝いている。
だんだんとはっきりしてくる頭。
しかし、謎は増える一方である。
「えーと?私はいつ家を出たのかしら?っていうより今日は何月何日?ああなんだかお腹が空いたわ朝食はパンに限るわよね・・・って」
とりあえず思った事を口にして、それからふっと不安になって蝶は叫んだ。
「愛羅っ!?」
「なぁにぃ〜?」
何だか色々最悪の事態なんかを考え始めた刹那、すぐ近くで聞き覚えのある少々舌足らずな高い声が聴こえて蝶はがくっと肩を落とした。
「あれぇ、蝶?どうしたのぉ?」
ふわふわした金色の巻き毛を細身の身体にまとわりつかせた少女は、天使のようであり、また高価なアンティークドールのようでもあった。
「愛羅・・・・言う事、ほんっとにそれだけかしら?」
「えぇ?だって、ここ・・・・・あら?」
落ち着きを取り戻した蝶に言われて、長い睫毛に縁取られた紫色の瞳で室内を見渡してから、愛羅はけろっと言った。
「蝶、ここドコ?」
我が幼馴染ながら、この天然ぶりは国宝級だ、と蝶は再認識した。


「・・・あの子達、目覚めたようね」
天井を見上げて舞が言った。
「・・・何時、送るの?」
「日が沈む前。今すぐやと、蝶と愛羅に負担掛かるやろ」
「そうね・・・・・」
言って、舞はhydeに背を向けた。
その顔が悲しく歪められていたのに、hydeは気付かなかった。

『貴方はどうして・・・いつも叶わぬ事を願うのかしら?折角迷いを断ち切れたのに、今度はもう一度・・・・』




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2626 第十七章 「サヨナラと約束」 2002/2/19(Tue)20:58- 風城空牙 - 15617 hit(s)


「ちょっと、皆来てくれへん?」
hydeは笑みを消し、すうっと息を吸って言った。
tetsuにはその声が、少しだけ震えているように聴こえた。


幾つもある窓から、少しずつ降りていく太陽が見える。斜めに差し込む陽光が、深紅の絨毯に影を落とす。
客室を出てから、hydeは振り返りもせず黙って歩いた。その後ろをついて行く六人もまた、黙ったままだ。
一番後ろにいた星夜は、少し早足で歩きながら小さく呟いた。
「・・・なんか、hydeさん、変」
「ん?何か言ったか?」
すぐ前を歩いていたkenがくるっと振り向いた。その声が聴こえたのだろう、tetsuとyukihiroも足を止める。蝶や愛羅まで振り向いたので、星夜は少し慌てた。
「う、ううん!何でもないよ!ほら、hydeさん行っちゃうよ!!」
星夜が悲鳴みたいな声を上げると、hydeが弾かれたように振り向いて、
「何してんの?」
大きな目を瞬かせた。
星夜が返答に困っていると、hydeはふっと顔を背け、
「・・・時間ないねん。早よ来てや」
苛立ったような声を出して、また歩き出した。


「皆、そこに円陣作って立って」
広間の真ん中を指差して、hydeが言った。
「なあ・・・何すんの?」
「うっさいわ。言う通りにすればええの」
ぴしゃりと言われて、訊ねたkenはむう、と唇を尖らせた。
ただ、hydeが酷く焦っている、という事は良く解ったので、それ以上は何も言わなかった。

「・・・・皆、準備ええな」

そう言ったhydeが、両手を胸の前に掲げ、低く何かを呟いて。
瞳を一瞬強く閉じ、見開いた時。
六人の足元が白く光った。
黒い大理石の床に、緻密で鮮やかな魔方陣が浮かび上がる。円形になっているそれからは、光が天井に向けて壁のように立ち上っていた。
『な、何これ!?』
星夜はそう言った、つもりだったが、その声は誰の耳にも届かなかった。自分の耳にも。
声だけではない、内外の音という音が消え失せていた。光の壁に吸い込まれたかのように。
それぞれが何かを叫んでいる様を冷めた目で見つめながら、hydeはゆっくりと光に歩み寄り。
tetsuの前で立ち止まった。
光に手を当てた。不思議な抵抗が掌に伝わり、くすぐったかった。
顔を上げると、tetsuの黒い瞳が戸惑ったように揺れていた。
hydeはその澄んだ輝きを見据えて、ゆっくりと、言葉を押し出すように口を開いた。

「・・・・俺、最後まで自分勝手やな」

でも、今は謝らない。

「もう、時間ないから、一つだけ」

最後の、我儘だけ。

「いつか、逢いに行くから」

やっと見つけた答えだけ。

「満月の夜に、逢いに行くから」

言わせて――――――。


hydeが言葉を紡ぐ間にも、壁に囲まれた六人の身体は少しずつ薄れていって。
全て言い終わるか否か、その刹那に。
tetsuの身体が――kenやyukihiro、星夜、蝶、愛羅の身体が、光の粒子となって消えた。


++++++++++++++++++++++++++++++++


・・・・・え〜、何だか色々ほざいておいてさっぱり更新してませんでした(爆死)
あっと言う間にこんなに間が・・・・ごめんなさいっ!!(土下座)
今友人に命狙われてて・・・・あっダムダム弾が(違)

あともうちょっとなので、頑張ります・・・と言いたいんですけど。
期末が!あと二週間ないんですよ!!どうしよう!!!
・・・・というわけで、細々と更新していきます・・・・(汗)


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