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【2670】第6話 混乱
2002/11/2(Sat)23:03 - 雪斐。 - Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1) - 5623 hit(s)

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「・・・そして俺たちは政府が隠したがっていた出口を探し出したんや。」
tetsuのいきなりの発言にhydeはどうにか視線だけをtetsuに向けられた。
声も出なければ表情も変わらなかった。
それほど驚いたのだ。

「ちょ、ちょっと待て。」
頭がグラグラと音を立ててかき回されているようだ。
冷静に考えようとしても答えが出る直前で再び揺すられるような感覚。



「混乱して当然よ・・・」
透き通る風のように優しい声がhydeの声を遮った。
hydeが重い頭をどうにか上げると、少女が一人立っていた。
いつからそこにいたのかテツのすぐ傍にある機械に寄りかかるようにしてhydeを見下ろしながら。
hydeと余り年が変わらない顔立ちはまだ幼さが残るが、その憂いを含んだ表情は酷く美しく見える。
腰まである長い亜麻色の髪は波のようにゆるく揺れて、絹のように柔らかく輝き、その髪が包む腕や顔は驚くほど白く、雪を想わせた。
しかし淡い色彩の中で目だけは闇のように黒く、hydeを静かに憐れんでいた。

「tetsu・・・気持ちは分かるけど、何も知らない人間に混乱するほど情報を与えることは危険な行為よ。」
「・・・けど時間がないんや。ちゃんと理解してもらわなhydeの命が危なくなるかもしれん。」
2人は声の調子を変えることもなく、淡々と話し合っていた。
しかしhydeはこの会話が明らかに自分のことを話しているのであり、その内容は決して穏やかなものではないことを感じていた。



・・・俺は何処にいるんだ・・・俺は・・・


俺は・・・どうなるんだ――――!




「hyde・・・大丈夫か?」
嫌悪と不安に駆られ嫌な汗が背を伝った時、tetsuが俺の肩を掴んで覗き込んだ。
「・・・」
一瞬tetsuと目が合ったがすぐに目を逸らした。
しかし視線を落ち着ける場所がどこにもなかったので仕方なく俯いた。
そんな俺にtetsuはさっきまで少女と話していたように、まるで感情を無くしたかのように俺に話しかけた。

「hyde・・・ここまで話してなんやけど・・・今なら引き返せる。まだ・・間に合う・・・
もしお前がこれ以上面倒なことに巻き込まれたくなかったらここを出てロボットに捕まらんと地下に繋がる道まで送ってやるから。
・・・けど俺たちと・・・本当の現実を見る気があるなら協力してくれへんか?それは危険と死を覚悟した上で・・・」

息が出来なかった。
頭が再び混乱し始め、目の前がゆっくり歪み始めるのが分かった。

「tetsu・・・いい加減にしたら?」
少女が溜息交じりに呟いたのが聞こえた。
「お前は黙ってて。・・・hyde、どうするんや?」
「・・・少し・・・考えさせてくれ。」
「当然ね。」


「claudia、お前は黙ってろ言うたやろ。・・・hyde、奥の部屋にベッドがあるから寝ててええで。ゆっくり考え。」
tetsuは背後の少女に背を向けたままそう言うと、hydeを機械の向こう側にあるドアを指差しながら優しく微笑んだ。
hydeは黙ったまま、示されたドアへ廃人のようにふらつきながら向かうとそのままパタン、とドアの閉まる音がした。

「・・・優しい顔して残酷ね。・・・少しはhydeの事も考えたら。
あれだけ普通に住んでいた世界が崩れ落ちる感覚、貴方には分からないでしょ?」
claudiaが閉まったドアを悲しげに見つめながら零すように言った。
「俺だって・・・」
「tetsuは違う。自分で気付いたんだもの・・・だけど私たちは教えられたのよ。突然真実を突きつけられたの・・・みんながみんな自分と同じだなんて思わないで。
・・・仲間にしたいならもっと気遣うべきよ。」
claudiaは吐き捨てるようにそう言うとテツの横を通り過ぎた。


「claudia・・・何処に行くんや。」
「kenちゃんのとこ。」
claudiaは脇に抱えていた厚手の黒いコートを着込むと振り向きざまに微笑んだ。
しかしtetsuはclaudiaと目も合わせることなく背を向けるとスタスタと近くにあった大きな機械へと歩み寄った。 
「・・・お前にはこれも必要やろ。」
tetsuは機械の背にかけてあった精密そうな灰色のマスクをclaudiaに投げやった。
「やっぱり優しいね、お兄ちゃん。でもseiyaにはもっと優しくしてあげてよ。」
「大きなお世話や。」
claudiaとtetsuが哀しげに微笑むと、重いドアが勢いよく開き、強い風がごおっと音を立てて吹き込んだと思った瞬間既にclaudiaの姿はなかった。

「・・・空気を抜き始めたか・・・」
重い機械たちに囲まれながら、一人になったtetsuは傍にあった椅子を引き寄せて座り込むと、ぐったりした表情で低い天井を見上げた。




「・・・時間がない。」







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