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【2554】第十章 「眠れる森の――」
2002/1/9(Wed)18:51 - 風城空牙 - Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 5.01; Windows 98) - 15796 hit(s)

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『なんや・・・・この感じ』
tetsuは、自分の全身を包む温かい光を感じて、指先を僅かに動かした。
「あっ、動いた!」
『・・・・星夜?もう朝なんか・・・・』
すぐ傍で聞こえた星夜の声に、ゆっくりと目を開ける。
そこに映るのは、見覚えの無い高すぎる天井。
「・・・・ここ、どこや」
混乱して、思わず声に出して言う。
「あ――――っ!!気が付いたぁっv」
星夜がtetsuの顔を覗き込んで、嬉しそうに笑いながら視界から消えていく。
『待ってや・・・・星夜、置いてかんといて!』
不安になって起き上がろうとしたが、
「っ痛ぅ・・・・!!」
首筋に走った激痛に、顔を顰めてまた倒れ込む。
そして少しずつ思い出す。
『俺は、あのひとに呼ばれてここに来たんやった。けど・・・・何で星夜が居るんや?
って事はつまりkenちゃんとゆっきーも一緒に居るんやろか?』
なかなか引かない痛みにうんざりしながら考えを巡らせるtetsuに、唐突に真横から声が掛けられた。
「無理に起きようとしては駄目です。この術は本当なら術者でないと解く事は出来ない物。
それを無理矢理解いたのだから、不具合があっても仕方が無いわ。
傷口も、無理に塞いだからしばらくは痛むだろうけど・・・我慢してね」
聞き覚えの無い、穏やかな女の声に顔を横へ向けると、長い黒髪を綺麗に結い上げた美しい女性がやんわりと微笑んでいた。
彼女の赤い瞳をじっと見つめたtetsuの脳裏に、子供みたいに泣きじゃくって、今にも壊れてしまいそうだった綺麗なひとが浮かんだ。
「・・・・あのひと、は?どないしたんや?」
今度はゆっくりと起き上がって、tetsuは周囲を見渡しながら訊ねた。
tetsuが寝かされていたのは広い客室だった。
星夜は部屋を出て行ったのだろう、分厚い白木の扉が開けっ放しになっていた。kenとyukihiroもいない。
『探しに行ったんかなぁ・・・?』
もう一度tetsuが女性を見ると、彼女はまた笑って、
「あのひと、とはhydeの事ね?tetsuさん」
「へっ!?おねーさん、何で俺の名前知ってんのや?」
目を丸くして自分を見つめるtetsuに、彼女もまた目を丸くしてあら、と口元を押さえた。
「そう言えば、貴方はまだ妾の名前を知らないのだったわ。失礼だったわね?ごめんなさい。
妾は舞。hydeの・・・義理の、母親。貴方の事は星夜さん達に聞かされたのよ」
それを聞いて、tetsuは思いっきり納得した。
『星夜が居るならkenちゃんもゆっきーも大丈夫なはずやし、俺の名前をこの人が知っとっても全然不思議やないんやな。
けど、何で付いて来たんやあいつら!俺はちゃんと付いて来んなって言うたったんに・・・』
「って、舞さん、あのひとはどないしたんや?ここには居らんみたいやけど・・・・」
またきょろきょろと室内を見渡す。
そんなtetsuを見つめて、舞はちょっとだけ表情を曇らせた。
「hydeはね・・・・長い間、無理をし過ぎていたの。
いつ狂いだしてもおかしくは無かったのに、必死に精神を繋ぎ止めて、貴方の事を待っていた。
おかげで、彼は傷つき、疲れ果ててしまったの、心も身体も。
だからかどうかははっきり解らないのだけど・・・目を、覚まさないの。丸一日、眠ったままなの・・・・・ちょっと!tetsuさん!?」
tetsuは、舞の言葉を最後まで聞く事なく部屋を飛び出した。


不思議と、tetsuは広い城内で迷わずにhydeの寝室へと辿り着けた。まるで、何かに導かれているみたいに。
「やっぱり、あのひとはまだ・・・俺を呼んでくれとんのやろか・・・?」
呟いて、重そうな大きな扉に手を掛け、ぐっと引っ張る。
「・・?何や。この扉、全然重くないやんか・・・ってうわぁ!!」
中に入ろうとした途端目の前に人影が二つ並んで、tetsuは悲鳴を上げた。
「あーびっくりしたー・・・って、あんたらは確か・・・・俺をここに連れて来た二人組やん」
tetsuの前に立ち塞がったのは、蝶と愛羅だった。
「失礼致しましたtetsu様」
「お身体はもう大丈夫なのですか」
極めて事務的な口調で応対しながら、二人の少女はtetsuの前に道を開けた。
「只今ご主人様は体調が優れません」
「お静かに願います」
そう言ってtetsuを見る二人の目は、心から主人を案じているのだと良く解る、悲痛な色をしていた。
tetsuは二人に向けて優しく微笑んで、
「解ってる。悪いけど、ちょっと二人だけにしてもらえるか?」


「え――っ!?舞さんどーしてtetsuを止めてくれなかったんですかぁっ!?」
「・・・ええから落ち着きや星夜。みっともない」
「どうせ行き先は解ってるんだから、追いかければ良いだけじゃない」
三人三様に声を張り上げている様を見て、舞は込み上げて来る笑いを堪えるのに必死だった。
が、やはりやり慣れない事なのでその我慢も大して長くは続かなかった。
「・・・ふふ、うふふふふ」
ふいに舞が笑い出したので、三人はぱっと舞を見つめた。
「ふふふ、あははははは」
子供のように笑い転げる舞に、三人は呆気に取られた。
「はは・・・ごめんなさい、貴方達、子供みたいなんだもの・・・・ふふふ」
目尻に浮いた涙を細い指で拭う舞を見て、三人は顔を見合わせた。


「hyde、さん。・・・・別に聞こえてへんでもええねん。俺は独り言言うてるだけやからな?」
深紅の絹に埋もれて眠るhydeは人形めいていて、tetsuに子供の頃に読んだ童話に出てきた、眠ったまま百年の時を過ごしたという架空の大国の姫君を思い出させた。
「俺は、貴方の事、凄く懐かしく感じるんやけど・・・・何でか、よく解らへんのや。貴方には解るんかなぁ?」
じっと見ていても、hydeが目を開く気配は無い。
「・・・・あの話、王子様はどうやってお姫様を起こしたったんやっけな・・・」
何となく口に出してみたが、本当は、今だにはっきりと覚えている。

『王子様は、美しいお姫様に口付けを贈り、悪い魔法を解いて、起こしてあげました』

客室よりもずっと高い天井を仰いで、tetsuは目を押さえた。
「・・・何なんや」
強く押し付けたその手の間から、透明な雫がぽろぽろと零れ落ちる。
「何で、こんな胸が痛いねん?」
hyde。
hyde。
聞いた事なんかない、ましてや呼んだ事なんかある訳ない。
なのに、何よりも懐かしい言葉。名前。
逢いたいと望み続けていたから?それだけ?
・・・・違う。
「なんや、解らへんけど・・・・どっかで繋がっとるんやね?俺と・・・hydeは」
hydeの顔を穏やかな、慈しむような目で見、tetsuは静かに言葉を紡ぐ。
「早く起きてや。一杯聞きたい事あるねんから・・・・・」
tetsuは、hydeの小さな手をきゅっと握って目を閉じた。

窓辺に飾られた赤い薔薇が、風に吹かれて儚く揺れた。


      窓の外 通り過ぎて行く

      透明な風

      それは 次に誰を訪ねるのかな

      優しく揺れて

      遠くまで 知らない場所まで

      空を渡って行くのかな・・・・・・・・





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2404 序章 「月光」 2001/12/21(Fri)05:27 風城空牙 (size:1911)
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2429 きゃぁ!!(^▽^) 2001/12/22(Sat)04:38 まいちん☆ (size:769)
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2433 ・・・・なんか長い(爆) 2001/12/22(Sat)09:03 風城空牙 (size:993)
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