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【2677】らる区交番事件簿・89
2003/7/3(Thu)17:06 - hana - Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 5.0; Windows 98; DigExt) - 472 hit(s)

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皆様、お久しぶりです。hanaです。
久しぶりすぎて忘れられちゃってるかも!?
長い間沈黙沈黙で申し訳ないっす。
ずっとスランプスランプだったもので・・・
見て下さる方はいらっしゃらないかもですが、らる交はかならず完結させるつもりでございます!!
んなわけで、数ヶ月ぶりの投稿させていただきまする。。






************************************************************************「・・・どぅするの、これ。」


暗い地下室に響く、女の声。

「・・・人は殺すことできねぇーな・・・“自殺”だけでいいんじゃないの」
恐ろしいセリフ。なのに、声の主の男はまるで素人俳優のように棒読み。

男と女の前に、イスに座ってグッタリとした男がいる。
顔は青白く、呪文のように時々なにかをブツブツ呟く。
先ほどの男がゆっくりとしゃがみ込み、イスに座った男と目線を合わせる。イスに座った男の目はうつろ。

「お前でラストだよ・・・長かった復讐劇がこれで終わる。」
イチヤはにこ、と微笑む。けれど、目が笑っていない・・・。

「ちょっとイチヤ。ほかの奴等には何かしら犯罪起こさせて死んでもらったんだよ。こいつだけなんもないってのは、ちょっとおかしいんじゃないの。」
狭霧は冷たい目でイスに座った男を見る。
きたないものを、みるようなまなざし。

「いいじゃん別に。コイツらクズのせいで、いろんな奴がメーワクしてんだ・・・最後くらい世間のために“死んで”もらおうじゃないの。」
イチヤが男の短い金髪をつかみ、グッと顔を上に向ける。
「なんでお前をラストに選んだかわかるか・・・てめぇは覚えちゃいないだろうけどなぁ」
暗闇に響く、イチヤの憎しみのこもった声・・・。

「やめて」

狭霧が耳をふさぐ。

「・・・やめて。思い出したくもない。」
顔を青くして、かすかながら震える狭霧。
そんな狭霧をイチヤが優しく抱きしめる。
「・・・ごめん狭霧。・・・ごめん」
「・・・イチヤ変わった。なんで?」
狭霧がイチヤの腕の中で呟く。

「高校の時はすごい気弱だった。でも“あの時”からは、すごく冷たかった。顔は笑ってても、目が笑ってなかった。
・・・でも、今は違う。あったかい。なんで?」

無言のイチヤ。
「あの人達?あの交番の・・・」

「違うよ」
狭霧の声を、イチヤが遮る。
「・・・さ、始めようか。最後の“儀式”を。」
 
ガタンッ!!!

「イチヤさん、狭霧さん!!」
いるはずのない、トモヒコの声が響く。
振り返ると、入り口付近にはトモヒコを初め、“RULER”のメンバーが30名ほど集まっていた。

「お前等・・・今日はここへの立ち入りは禁止してるはずだぞ・・・」
ビックリしてか、怒っているのか・・・イチヤの声は低かった。

「・・・もう、お願いだから止めてください・・・!もうこれ以上殺さないで下さい!」
トモヒコは懸命に叫ぶ。
イチヤも狭霧も何も言わない。
「今まで、先輩達が死んでいったのは、イチヤさん達が仕掛けたんだろ・・・?」

「出て行け。お前らは知らないほうがいい。」
イチヤは呟く。

「イチヤさん!!俺らが尊敬してるイチヤさんは、人殺しなんかしないはずだ!!」


「出て行け!!!」


場が、静まり返る・・・。

「わからないか?俺はお前等に尊敬されるような人間でもなにもない。過去に囚われ、常に解放されるだけを夢見てきた男だ。そのためなら、何をするも構わない、どんな手を使うことも構わなかった。
お前等のことだって・・・利用してきたんだよ。行き場のない奴等を集めて、“RULER”をタムろ場にして・・・ただの不良が集まる場所に見せかけてきた。警察の目を欺くためにな。お前等を利用したんだ。」

イチヤの口調は、悲しみもせつなさも感じさせない、憎しみだけがあった。
けれど・・・わかっていた。
イチヤはわざと、嫌われるような暴言を吐いたこと。自分を慕ってくれる人々が悲しまないように、敢えて突き放そうとしていること。
その場にいる全員が、わかっていた。
けれど、何も言えない。イチヤと狭霧が囚われている、過去・・・。
その過去があったからこそ、死んでいった者達・・・。
トモヒコ達には、わからなかった。
けれど、その過去に縛り付けられ、今までずっと苦しみ、それが故、復讐を実行しているイチヤと狭霧の痛々しさが目に見えた。

「・・・帰れ。“RULER”は解散だ。この場所も取り壊す。二度と来るな。
・・・それとも、お前等の“先輩”が薬物中毒で狂い死ぬところを見たいか?」

まだ、説得は始まったばかりだった。
けれど・・・トモヒコ達は、自分の力でこの二人を止めることはできないことに気づいた。
この二人の傷の深さに、今まで誰も気づかなかったのだ。

その場に、数人のすすり泣く声が聞こえた。
女だけでなく、男も、静かに泣いていた・・・。
イチヤと狭霧の胸が痛んだ。

「・・・帰れよ。」
イチヤは、もう一度ゆっくり言った。
まるで、子どもをあやすかのように、優しく・・・。


                         けれど。


「一段落着きましたか?十字イチヤさん。」

見知らぬ声。全員が振り向く。
一人の背広を着た中年男性を先頭に、10名ほど背広を着た男性、スーツ姿の女性。
そして・・・・制服を着た、警察官・・・。


「警視庁の新江樹と申します。」
ニッコリ、先頭の男性は微笑んだ。

「お前・・・!!!」

狭霧は目を見開いた。新江樹・・・。
「おや、狭霧お嬢さん・・・お久しぶりです。お会いしたのは私がらる区警察署署長だった時以来、ですかね?」
新江樹が狭霧を見てにこやかに言う。
「・・・忘れたか。お前は私のおかげで警視庁に出世したんだ・・・」
狭霧は低く呟く。

「そう、狭霧お嬢さんが、お父様に私の評判を伝えてくれましてね。警視庁出世のお話を頂きましたよ。
でもね・・・残念。私はそのお話しはお断りしました。狭霧お嬢さんのような小娘のおかげで出世したなんて、らる区警察署署長の名において恥ですから。
あなたはご存知なかったのですね。私は署長になる前、警視総監の総務部にいまして、前々から警視庁の方からお声を頂いていたのですが、あえて署長の方を選びました。
でもまぁ・・・それでも再三お声をかけていただいて、警視庁の方に行くことになりました。貴女を逮捕するためにね。」

新江樹は淡々と言う。狭霧はずっと知らなかった。
彼の地域で起こった“あの事件”をこれ以上追うな、と狭霧は口封じの代わりに、警視庁のいい地位にいる自分の父親に、新江樹の出世を頼んだのだ。
彼が、それを断った・・・?ならば・・・

「ならどうして・・・今まで黙っていたんだ・・・?」
「貴女を逮捕するタイミングを探していたのです。“あの事件”直後ならば、きっと事件をもみ消されていた。
私と同じように、狭霧お嬢さんのおかげで出世できた警視庁の者どもにね・・・。」



所詮、自分は父親の力で存在していた小娘なのだ・・・。
自分の力で・・・愛する人も守ることが出来ない・・・。




「さて、ゲームはおしまいです。あなた方を薬物所持、殺人未遂の容疑で逮捕します。そこの皆さんにも、ご同行願いましょうか。」



背広の男たちが、警察たちが、動きだした・・・。
イチヤと狭霧に向かっていく・・・。

「狭霧!!早くそいつを・・・!!」
イチヤが叫ぶ。もう逃げられない。
けど・・・この男を殺さない限り、復讐は終わらない・・・!!
狭霧は頷いて、イスの上でグッタリしている男の額に手をかけた。

「来るなぁぁぁ!!!」
「やめろ!!イチヤさん達に触るな!!」
「触んないで!!放して!!」
「狭霧さん殺さないで!!お願いだから殺さないで!!!」

トモヒコ達が、懸命に阻止する。
叫びが、苦しみが、声が、涙が・・・その場に響いた・・・。

「はやく捕まえろ!!はやく狭霧お嬢さんを止めるんだ!!」
新江樹の声が高ぶる。はやく、はやく・・・あの男が殺される前に、早く・・・!!
イチヤは狭霧の肩に手を置いた。目の前に、自分たちを守ろうとする仲間がいた。
どんなに冷たく突き放そうとも、笑顔でついてきてくれた。
トモヒコは・・・自分の過ちを必至で止めようとしてくれた。
わかっている。自分が間違えていることは、わかっていた・・・。
けれど・・・もう純粋なころには戻れない。

狭霧が呪文を言い終わった。男の手が何かを探している・・・。
イチヤは近くにあったナイフを男に差し出した。
 
「さぁ・・・それで、自らの命を絶ちなさい・・・お前の汚れた魂を天国に送るの・・・」

          

    男が・・・ナイフを手にする・・・


                            ゆっくりとイスから立ち上がり
           天を仰いで



                       矛先を





              自分の喉元へ・・・・

全員が息を飲む。
“RULER”の数人が手で顔を覆う。
警察が、男に向かって走り出す。

全てがスローモーションのように、見えた・・・。

これで何もかも終わる。コイツさえ死んでしまえば、全てが終わる・・・。


                         英樹、やっと終わるよ・・・。



                




  
                     「解き放て!!!」                               



声が響いた。女の声だ。
ナイフを手にした男は、その声を聞いて、ナイフを床に落とし、倒れこんでしまった・・。
狭霧は勢いよく振り返る。
この催眠を解除する、唯一の言葉。「解き放て」。
この言葉を知っているのは、狭霧と・・・あの子しかいない・・・。

全員が、声の主をたどって、振り返った。




                  「ぱぴ・・・」



狭霧のかすれた声が、まるで泣いているようだった。

                入り口に、8人の影・・・。



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