【2677】らる区交番事件簿・89 |
皆様、お久しぶりです。hanaです。
久しぶりすぎて忘れられちゃってるかも!? 長い間沈黙沈黙で申し訳ないっす。 ずっとスランプスランプだったもので・・・ 見て下さる方はいらっしゃらないかもですが、らる交はかならず完結させるつもりでございます!! んなわけで、数ヶ月ぶりの投稿させていただきまする。。 ************************************************************************「・・・どぅするの、これ。」 暗い地下室に響く、女の声。 「・・・人は殺すことできねぇーな・・・“自殺”だけでいいんじゃないの」 恐ろしいセリフ。なのに、声の主の男はまるで素人俳優のように棒読み。 男と女の前に、イスに座ってグッタリとした男がいる。 顔は青白く、呪文のように時々なにかをブツブツ呟く。 先ほどの男がゆっくりとしゃがみ込み、イスに座った男と目線を合わせる。イスに座った男の目はうつろ。 「お前でラストだよ・・・長かった復讐劇がこれで終わる。」 イチヤはにこ、と微笑む。けれど、目が笑っていない・・・。 「ちょっとイチヤ。ほかの奴等には何かしら犯罪起こさせて死んでもらったんだよ。こいつだけなんもないってのは、ちょっとおかしいんじゃないの。」 狭霧は冷たい目でイスに座った男を見る。 きたないものを、みるようなまなざし。 「いいじゃん別に。コイツらクズのせいで、いろんな奴がメーワクしてんだ・・・最後くらい世間のために“死んで”もらおうじゃないの。」 イチヤが男の短い金髪をつかみ、グッと顔を上に向ける。 「なんでお前をラストに選んだかわかるか・・・てめぇは覚えちゃいないだろうけどなぁ」 暗闇に響く、イチヤの憎しみのこもった声・・・。 「やめて」 狭霧が耳をふさぐ。 「・・・やめて。思い出したくもない。」 顔を青くして、かすかながら震える狭霧。 そんな狭霧をイチヤが優しく抱きしめる。 「・・・ごめん狭霧。・・・ごめん」 「・・・イチヤ変わった。なんで?」 狭霧がイチヤの腕の中で呟く。 「高校の時はすごい気弱だった。でも“あの時”からは、すごく冷たかった。顔は笑ってても、目が笑ってなかった。 ・・・でも、今は違う。あったかい。なんで?」 無言のイチヤ。 「あの人達?あの交番の・・・」 「違うよ」 狭霧の声を、イチヤが遮る。 「・・・さ、始めようか。最後の“儀式”を。」 ガタンッ!!! 「イチヤさん、狭霧さん!!」 いるはずのない、トモヒコの声が響く。 振り返ると、入り口付近にはトモヒコを初め、“RULER”のメンバーが30名ほど集まっていた。 「お前等・・・今日はここへの立ち入りは禁止してるはずだぞ・・・」 ビックリしてか、怒っているのか・・・イチヤの声は低かった。 「・・・もう、お願いだから止めてください・・・!もうこれ以上殺さないで下さい!」 トモヒコは懸命に叫ぶ。 イチヤも狭霧も何も言わない。 「今まで、先輩達が死んでいったのは、イチヤさん達が仕掛けたんだろ・・・?」 「出て行け。お前らは知らないほうがいい。」 イチヤは呟く。 「イチヤさん!!俺らが尊敬してるイチヤさんは、人殺しなんかしないはずだ!!」 「出て行け!!!」 場が、静まり返る・・・。 「わからないか?俺はお前等に尊敬されるような人間でもなにもない。過去に囚われ、常に解放されるだけを夢見てきた男だ。そのためなら、何をするも構わない、どんな手を使うことも構わなかった。 お前等のことだって・・・利用してきたんだよ。行き場のない奴等を集めて、“RULER”をタムろ場にして・・・ただの不良が集まる場所に見せかけてきた。警察の目を欺くためにな。お前等を利用したんだ。」 イチヤの口調は、悲しみもせつなさも感じさせない、憎しみだけがあった。 けれど・・・わかっていた。 イチヤはわざと、嫌われるような暴言を吐いたこと。自分を慕ってくれる人々が悲しまないように、敢えて突き放そうとしていること。 その場にいる全員が、わかっていた。 けれど、何も言えない。イチヤと狭霧が囚われている、過去・・・。 その過去があったからこそ、死んでいった者達・・・。 トモヒコ達には、わからなかった。 けれど、その過去に縛り付けられ、今までずっと苦しみ、それが故、復讐を実行しているイチヤと狭霧の痛々しさが目に見えた。 「・・・帰れ。“RULER”は解散だ。この場所も取り壊す。二度と来るな。 ・・・それとも、お前等の“先輩”が薬物中毒で狂い死ぬところを見たいか?」 まだ、説得は始まったばかりだった。 けれど・・・トモヒコ達は、自分の力でこの二人を止めることはできないことに気づいた。 この二人の傷の深さに、今まで誰も気づかなかったのだ。 その場に、数人のすすり泣く声が聞こえた。 女だけでなく、男も、静かに泣いていた・・・。 イチヤと狭霧の胸が痛んだ。 「・・・帰れよ。」 イチヤは、もう一度ゆっくり言った。 まるで、子どもをあやすかのように、優しく・・・。 けれど。 「一段落着きましたか?十字イチヤさん。」 見知らぬ声。全員が振り向く。 一人の背広を着た中年男性を先頭に、10名ほど背広を着た男性、スーツ姿の女性。 そして・・・・制服を着た、警察官・・・。 「警視庁の新江樹と申します。」 ニッコリ、先頭の男性は微笑んだ。 「お前・・・!!!」 狭霧は目を見開いた。新江樹・・・。 「おや、狭霧お嬢さん・・・お久しぶりです。お会いしたのは私がらる区警察署署長だった時以来、ですかね?」 新江樹が狭霧を見てにこやかに言う。 「・・・忘れたか。お前は私のおかげで警視庁に出世したんだ・・・」 狭霧は低く呟く。 「そう、狭霧お嬢さんが、お父様に私の評判を伝えてくれましてね。警視庁出世のお話を頂きましたよ。 でもね・・・残念。私はそのお話しはお断りしました。狭霧お嬢さんのような小娘のおかげで出世したなんて、らる区警察署署長の名において恥ですから。 あなたはご存知なかったのですね。私は署長になる前、警視総監の総務部にいまして、前々から警視庁の方からお声を頂いていたのですが、あえて署長の方を選びました。 でもまぁ・・・それでも再三お声をかけていただいて、警視庁の方に行くことになりました。貴女を逮捕するためにね。」 新江樹は淡々と言う。狭霧はずっと知らなかった。 彼の地域で起こった“あの事件”をこれ以上追うな、と狭霧は口封じの代わりに、警視庁のいい地位にいる自分の父親に、新江樹の出世を頼んだのだ。 彼が、それを断った・・・?ならば・・・ 「ならどうして・・・今まで黙っていたんだ・・・?」 「貴女を逮捕するタイミングを探していたのです。“あの事件”直後ならば、きっと事件をもみ消されていた。 私と同じように、狭霧お嬢さんのおかげで出世できた警視庁の者どもにね・・・。」 所詮、自分は父親の力で存在していた小娘なのだ・・・。 自分の力で・・・愛する人も守ることが出来ない・・・。 「さて、ゲームはおしまいです。あなた方を薬物所持、殺人未遂の容疑で逮捕します。そこの皆さんにも、ご同行願いましょうか。」 背広の男たちが、警察たちが、動きだした・・・。 イチヤと狭霧に向かっていく・・・。 「狭霧!!早くそいつを・・・!!」 イチヤが叫ぶ。もう逃げられない。 けど・・・この男を殺さない限り、復讐は終わらない・・・!! 狭霧は頷いて、イスの上でグッタリしている男の額に手をかけた。 「来るなぁぁぁ!!!」 「やめろ!!イチヤさん達に触るな!!」 「触んないで!!放して!!」 「狭霧さん殺さないで!!お願いだから殺さないで!!!」 トモヒコ達が、懸命に阻止する。 叫びが、苦しみが、声が、涙が・・・その場に響いた・・・。 「はやく捕まえろ!!はやく狭霧お嬢さんを止めるんだ!!」 新江樹の声が高ぶる。はやく、はやく・・・あの男が殺される前に、早く・・・!! イチヤは狭霧の肩に手を置いた。目の前に、自分たちを守ろうとする仲間がいた。 どんなに冷たく突き放そうとも、笑顔でついてきてくれた。 トモヒコは・・・自分の過ちを必至で止めようとしてくれた。 わかっている。自分が間違えていることは、わかっていた・・・。 けれど・・・もう純粋なころには戻れない。 狭霧が呪文を言い終わった。男の手が何かを探している・・・。 イチヤは近くにあったナイフを男に差し出した。 「さぁ・・・それで、自らの命を絶ちなさい・・・お前の汚れた魂を天国に送るの・・・」 男が・・・ナイフを手にする・・・ ゆっくりとイスから立ち上がり 天を仰いで 矛先を 自分の喉元へ・・・・ 全員が息を飲む。 “RULER”の数人が手で顔を覆う。 警察が、男に向かって走り出す。 全てがスローモーションのように、見えた・・・。 これで何もかも終わる。コイツさえ死んでしまえば、全てが終わる・・・。 英樹、やっと終わるよ・・・。 「解き放て!!!」 声が響いた。女の声だ。 ナイフを手にした男は、その声を聞いて、ナイフを床に落とし、倒れこんでしまった・・。 狭霧は勢いよく振り返る。 この催眠を解除する、唯一の言葉。「解き放て」。 この言葉を知っているのは、狭霧と・・・あの子しかいない・・・。 全員が、声の主をたどって、振り返った。 「ぱぴ・・・」 狭霧のかすれた声が、まるで泣いているようだった。 入り口に、8人の影・・・。 |
【ツリー構成】 〔このツリー(628)の投稿を全て表示する〕