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【2669】第5話 過ち
2002/10/29(Tue)22:36 - 雪斐。 - Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1) - 5560 hit(s)

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「そんな・・・皆知ってたのか?」
「いや。ごく僅かな方々と俺だけ。」
hydeが恐る恐る尋ねるとtetsuは機械に顔を向けたまま、ぶっきらぼうに答えた。



「あんた・・・誰なんだよ。何知ってるんだよ。」

hydeがゆっくり立ち上がると、tetsuも機械から手を放し僅かに振り返った。


「・・・今ここから出てもさっきのロボットたちに捕まるだけやで。捕まらなくても酸素がなくなるから窒息死やな。」
tetsuは完全にhydeの方へ向き直ると、機械に寄りかかるような格好をしてhydeを眺めた。

「俺はただの何でもない男や。ただ偶然皆が知らんようなことを知ってしまっただけで。そんなお前が危険視するような奴やない。」
そう言って少し俯いたtetsuの姿は何処か寂し気だった。



「・・・これからどうするんだ?」
2人してしばらく黙り込んだ後、tetsuがふいに尋ねてきた。

「・・・どうするって言ったって。外出たら捕まるんだろ?・・・って何で捕まるんだよ?」
「お前・・・政府が何回もしつこく言ってたやん!
国民は全て地下移住してくれって。だからココに残ってるの見つかったら即地下に連れてかれるんや。しかも今日の0時からの記憶は全て消される。まぁそれだけや。
で。それでもロボットの目を盗んでココに居つづける奴は密に酸素を抜いて皆殺しって訳や。」
tetsuはまたhydeに背を向けると別の機械のところへ行っていじり始めた。

「・・・でも何でそんなに地下に行かせたいわけ?ココに残ったって別に・・・」

hydeは何となくさっきtetsuが座っていた椅子に腰掛けると不満そうに呟いた。
「地上から伝わる冷気がどんどん地下まで届くようになってきたんや。
やからマグマに近いとこまでいかなあかんくなったんや。マグマはかなりの熱を持ってるから、もう人工的にで熱を作らなくていいし。エネルギーの節約や。
でも政府が公表した理由は紫外線からの保護やけどな。適当なこと抜かしやがって。」
「でも地上って・・・そんなに寒いのか?」

「まあな。太陽が地上に届かんくなってるもん。完全な氷河期や。
 でも俺らにとって大事なのは、この世界の何処かに地上に繋がる出口があるってことや。」


「出口?」
「そりゃそーや。人間は元々地上に住んでた生き物やもんな・・・だから地上から地下への道が残ってるはずなんや。その道が地上に繋がってる。それを探し出されたくなかったんやろなぁ〜。」
「それより何で俺たちは知らぬ間に地下で生きてたんだろうなぁ・・・地下に行きたくねぇって言ってた俺が馬鹿みてぇじゃねーか。」
hydeは溜息交じりにそう呟くと、無機質な机に片腕を乗せるとだるそうにうつ伏せになった。

「ははっ。だからお前ココに残ってたんか?
でもなぁ人間の記憶ほどあやふやなものってないで。
簡単に消したり書き込んだり出来る。

だから政府は都合の悪い記憶を全部消して、自分達の都合のいい記憶を1人ずつ書き込んだんだ。

自分達の過ちを全て消しやがったんだよ。」

hydeはゆっくり顔を上げると髪をかきあげながら、意味わかんねぇよ、とまた溜息をつく。


「過ち?」
「187年前、核を使ったんだ。世界的な核戦争。」

「・・・まじかよ。」
「もう地上には資源も食料も足りなくて、人間ばかりが留まることなく増えていた為に戦争が起こったんだ。でもその戦争は結構長引いて・・・更に食物が不足してこのままじゃ人類全てが滅亡するって言う直前まで来ててどうしようもなくなって核使ったんや。核の威力は凄いからな。」

hydeはもう現実味のない、おとぎ話を聞いている感覚だった。
そう・・・まるで遠く昔の神話でも聞いているかのよう。

「でもそれは数人のお偉いさんで決められた。
自分の国だけ助かればいい。他の国に構ってる時間なんてもう何処にもなかった。
だから自分達の国を除く全ての地域に核を落とした。
これが人類滅亡を防いだ一番いい方法やと想ってんろな。

国民に何も話さず。何処にも漏らさずに一瞬で消し去ったんだ。
でも神はそんな愚かな人間を見逃さない。地獄に舞っていた死の灰を自分だけ助かればいいなんて思ってる人間たちに降り注いでやったんだ。

だけど彼らは神の怒りを素早く悟り、逃げ込むようにして地下へと潜った。

これで全部や。奴らの罪は・・・」


tetsuは一通り喋り終えると、悲しそうに微笑んだ
「人間って何でいつも繰り返すんやろうな。取り返しのつかない過ちを。」


hydeはそんなtetsuに何も言わず、ただ眺めると目を伏せた。

何も言えなかった。


それだけの惨劇を今まで全く知らなかったことが何となく虚しかった。
核を落とした数人の考えも分からなくはない。
けれど・・・それで何人の人が消えてしまったんだろう・・・


一瞬で・・・
1時間後に・・・
1日後に・・・

想像もつかない。
随分昔、まだ自分が幼かった頃何かで見た“ヒロシマ・ナガサキ”の絵が浮かんだ。
白黒なのに真っ赤な写真。
触れるだけで痛みが走る少女の絵。

それが一瞬に世界中で起こった。
何て恐ろしい悪夢。
悪夢なんかじゃない・・・さっきtetsuが言った“地獄”だ。

真っ赤で息苦しくて、痛くて逃げ場がない地獄が世界中で・・・




「・・・そして俺たちは政府が隠したがっていた出口を探し出したんや。」


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