戻る〕 〔クリックポイント〕 〔最新の一覧

【2657】第1話 苛立ち
2002/10/17(Thu)18:35 - 雪斐。 - Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1) - 5297 hit(s)

引用する
パスワード






「いい加減にしろよ!!ここ最近毎日毎日!!」

(うるせぇ・・・こいつ。)
毎日のように問題を起こしていつもの交番に連れていかれている。
「・・・今日は何人殴った?」
白髪交じりの警官が面倒くさそうに尋ねて来た。
「覚えてねぇよ・・・」
「3人です。」
安っぽい椅子に座っていた俺は声のした方を振り向いた。
(生真面目そうな顔立ち・・・新米か。)
紺色の制服が何処か真新しかった。

そいつは俺と目が合った時、何故か微笑みかけた。
(・・・変なヤツ。捕まってる奴に微笑むなよ。)
「へぇ・・・今日は少ない方だな。」
「知るか。」
白髪交じりの警官が嫌みたっぷりに俺に微笑みかける。新米の奴とは比べ物にならない程、胸の中に汚いモノが流れ込んでくるような感じがした。
でも、ここでこいつを殴ったってどうにもならない事ぐらい分かってる。
・・・そこまで俺はバカじゃない。

「じゃぁ。今日はこのへんで返してあげましょ?」
「そうだな。こいつの家族には連絡してある・・・もうすぐ来るだろ。」
また白髪交じりの警官が面倒くさそうに交番の外に目をやった。


こんな陰気臭いところに来るのが好きなワケじゃない・・・
知らねぇ奴らが俺を異物を見るような目で見ていた。
その視線がうざかった・・・
あいつらが悪い・・・俺は正常だ。お前らが狂ってる。

確かに髪は金色だし、ピアスは何個でも。目つきは悪い。頬に入れた刺青が黒く威圧する。
だから何だよ。死人のような瞳で他人を貶す奴らより何の問題もない・・・
この警官もそうだ。この視線が俺に纏わりついて、張り詰めた糸が一瞬にして切れそうだ。
早く・・・ここから出してくれ・・・

そのとき、目の前の警官が奥の部屋へ入って行った。何か見たい番組でも始まったのだろう。奥の部屋から無数の話し声が聞こえてきた。

その警官が居なくなると、あの新米警官がすぐに俺の前に座った。
「俺、tetsuって言うんや。よろしくな。」
「・・・警官が名前言っていいのかよ。明日襲われるんじゃねーの。」
そのtetsuと言った警官はただ穏やかに俺を見ていた。
そいつの瞳は怖いほど澄み切って、優しかった。

他の奴とは違う、俺をまともな人間だとわかってくれる奴だと直感した。
「あんた・・・」
「tetsuや。」
「tetsu・・・。何で人数・・・」
俺は率直に聞いた。あの腐った警官が人数を聞いたとき、こいつは平然と3人と言った。
「俺がやった奴は5人。」
「蹴った奴入れたらな。」
そう言うとtetsuは意地悪そうに微笑んだ。
「あの人、殴った人数しか聞かへんかったやろ?俺はウソついてないで♪」
俺はただ目を丸くした。
「そりゃ・・・そうやけど・・・」
「やろ??」
「tetsuはあのオヤジが嫌いなん?」
俺はいつの間にか、この人の雰囲気に呑まれていた。
「別に。」
彼はあまりにもあっさりと答えてしまった。
「じゃあ、何で俺みたいなのかばうんだよ。」
「何となくや。何となくコイツ信用出来るんちゃうかな〜と思って♪」

tetsuが嬉しそうに微笑んだとき、交番のドアが静かに開いた。
「こんばんは。hydeの姉です。」
白い肌に淡い栗色の髪がよく似合う美しい人。
「あぁ。こんばんは。」
tetsuが俺のときと同じように微笑みながらゆっくり立ち上がって挨拶した。
「毎日、毎日、すいません・・・」
「いや。そんなこと無いですよ。でもあんま問題起こさんように。」
「はい。すいませんでした。」
姉が深深と頭を下げている。
「そいじゃぁ、hyde。また来てな♪」
「・・・絶対こねぇ。」
俺は何故か気持ちと反対の言葉を言ってしまったことに後悔した。
それでもtetsuは微笑んで俺の肩を優しく叩いた。
「気ぃつけて帰って下さいね。まぁ、こいつがいれば安全でしょう。」
「うっせぇんだよ。」
tetsuが意地悪そうに姉に微笑みかけた。
「じゃぁな。hyde。」
「・・・」
俺は無言でtetsuに背を向けると家へ向かった。

「待って!!」
「あ・・・ごめん。」
姉が後ろから走ってきたので、hydeは思わず謝った。
気付かぬうちに早足になっていた自分に少し戸惑いながら
「いいよ。大丈夫だった?」
「あぁ。あそこの警官むかつくけどな・・・」
唯一、姉に心を開いていたhydeは眉を顰めながら答えた。

「あの若い人?それともいつもの?」
「両方。」
「ふ〜ん。」
姉はそう言いながら優しく微笑んだ。

静かな住宅街を歩くとまた誰かに異常な目で見られているような気がしてそっと上を向いた。
月は何処にもない。星なんて一生見ないだろう・・・

もう何年かしたら人間は土の下が唯一生き延びる場所だと、うさんくさい奴が自慢気に話していた。外国では完全に地下に潜ってしまった国もあるらしい・・・

でも俺は死人みたいに地下で縮こまって暮らすくらいなら、この体が蒸発するまで地上にいる。俺は逃げたりなんかしない・・・





【ツリー構成】 〔このツリー(2656)の投稿を全て表示する

2656 削除
2657 第1話 苛立ち 2002/10/17(Thu)18:35 雪斐。 (size:3953)
2659 削除
2661 削除
2663 第2話 確信 2002/10/18(Fri)21:38 雪斐。 (size:2014)
2664 削除
2665 削除
2666 第3話 異質 2002/10/21(Mon)23:01 雪斐。 (size:3069)
2667 第4話 地下都市 2002/10/29(Tue)22:32 雪斐。 (size:2803)
2668 削除
2669 第5話 過ち 2002/10/29(Tue)22:36 雪斐。 (size:4291)
2670 第6話 混乱 2002/11/2(Sat)23:03 雪斐。 (size:3722)
2671 削除

※ 『クリックポイント』とは一覧上から読み始めた地点を指し、ツリー上の記事を巡回しても、その位置に戻ることができます.