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【2614】第十五章 「迷いを捨てた胸に在るモノ」
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「hyde!!」
いきなり呼ばれて重い瞼を開けた途端、かなりの至近距離にtetsuの顔があった。
「!?」
hydeはぐぐっとtetsuの身体を押しのけつつがばっと起き上がり、
「な、なななな何!?」
真赤な顔で言った。
目を開けた瞬間に人の顔が間近にあったりしたら、hydeでなくとも驚くだろう。無理のない反応だ。
だが、tetsuにとっては少々意外な反応だった。
「・・・・へぇ。やっぱり変わらないんやね」
「何が!?」
「いや、妖魔言うても、人と同じやなぁ、って思うたんや。
そうやって、驚いたり笑うたり、泣いたり。苦しかったり、悲しかったり、嬉しかったりするやろ?」
妙に納得したような口調で言いながら無邪気に笑うtetsuに、hydeは少し救われたような気がした。

『そうやね、tetsuの言う通りかもしれへん』

声に出さずに思って、ゆっくりと起き上がる。
窓から高い太陽を見上げたその顔は、寝付く前とは違って、すっきりとしていた。


hydeは一人、長く広い廊下を歩いていた。
tetsuは中々来ないから起こしに来ただけだ、と言って客室の方に戻って行ったし、hydeには行くべき場所があった。

そうして辿り付いたのが、漆塗りの重厚な両開きの扉の前。
扉の両脇にhydeの腰程の白い台座があり、その上に薄紅色のガラスの花瓶が置かれていた。
生けられているのは、裏庭に咲き誇っているのと同じ赤い薔薇。
「・・・・元通りやな」
自分の寝室にも同じ花が生けられていたのを思い出す。
「舞、入るで」
言って、hydeは扉を押し開けた。

部屋の主、舞はhydeに向けて少し寂しげに微笑んだ。
「もう『義母様』とは呼んでくれないのね?hyde。言葉遣いも、子供の頃と同じね」
「ああ。もう、自分を造る必要、無いからな」
言ってニッと笑うと、hydeの綺麗な顔は恐れを知らない不敵な少年のそれに変わる。
その瞳に迷いがカケラも潜んでいないのを知って、舞の表情が少し、柔らかくなる。
「・・・もう、決めたのですね?」
静かな声。
問い掛けの形だが、もう全てを知っていると言わんばかりの落ち着いた響き。
「・・・ああ、決めた」
その言葉に、ゆっくりと目を伏せ、また開く。
揺らがない輝き。

「tetsuも、あの三人も、蝶と愛羅も。皆、外に出す」


「・・・ここ、どこ?」
海の色をした切れ長の瞳を瞬いて、蝶は茫然と呟いた。
寝起きとは思えないほど真直ぐな肩までの黒髪は、朝日を受けて鈍く輝いている。
だんだんとはっきりしてくる頭。
しかし、謎は増える一方である。
「えーと?私はいつ家を出たのかしら?っていうより今日は何月何日?ああなんだかお腹が空いたわ朝食はパンに限るわよね・・・って」
とりあえず思った事を口にして、それからふっと不安になって蝶は叫んだ。
「愛羅っ!?」
「なぁにぃ〜?」
何だか色々最悪の事態なんかを考え始めた刹那、すぐ近くで聞き覚えのある少々舌足らずな高い声が聴こえて蝶はがくっと肩を落とした。
「あれぇ、蝶?どうしたのぉ?」
ふわふわした金色の巻き毛を細身の身体にまとわりつかせた少女は、天使のようであり、また高価なアンティークドールのようでもあった。
「愛羅・・・・言う事、ほんっとにそれだけかしら?」
「えぇ?だって、ここ・・・・・あら?」
落ち着きを取り戻した蝶に言われて、長い睫毛に縁取られた紫色の瞳で室内を見渡してから、愛羅はけろっと言った。
「蝶、ここドコ?」
我が幼馴染ながら、この天然ぶりは国宝級だ、と蝶は再認識した。


「・・・あの子達、目覚めたようね」
天井を見上げて舞が言った。
「・・・何時、送るの?」
「日が沈む前。今すぐやと、蝶と愛羅に負担掛かるやろ」
「そうね・・・・・」
言って、舞はhydeに背を向けた。
その顔が悲しく歪められていたのに、hydeは気付かなかった。

『貴方はどうして・・・いつも叶わぬ事を願うのかしら?折角迷いを断ち切れたのに、今度はもう一度・・・・』





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2404 序章 「月光」 2001/12/21(Fri)05:27 風城空牙 (size:1911)
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2518 第八章 「求める理由」 2002/1/3(Thu)11:39 風城空牙 (size:5582)
2519 第九章 「抑え切れない力」 2002/1/4(Fri)09:34 風城空牙 (size:4120)
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