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【2559】第十一章 「その感情の名前」
2002/1/10(Thu)18:28 - 風城空牙 - Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 5.01; Windows 98) - 16564 hit(s)

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遠ざかる光 膨張していく不安
暗闇の中 俺の鼓動は 
不気味に歪んで 幾重にも重なり合って
なかなか途切れず 響いている・・・・・・



「・・・・・ん」
甘い薔薇の香りに鼻腔をくすぐられ、hydeは重い瞼を開けた。
「もう・・・朝なんか・・・?」
まだ眠い、と寝返りをうって、再び目を閉じる。
と、誰かの気配を感じた。
びくっと身を竦ませ、hydeはそおっと顔を上げた。
「・・・・・・・tetsu?」
目を見開いているhydeの目の前で、tetsuが穏やかな寝息を立てていた。
「・・・・・何で・・・ここに居るん?」
訊ねてみても、tetsuは熟睡しているようで、答えは返ってこなかった。
tetsuの寝顔が、安心しきって眠る子供のそれのようにあどけなくて、hydeはふ、と微笑んだ。
その視線が、tetsuの首筋に留まった。
「何や・・・舞がやったんか」
自分のつけた傷が塞がっているのを見て、hydeはtetsuがここに居る理由を知った。
それに、他者のかけた魔法を解くという高度な技量と強力な魔力を必要とする事を成し遂げられる人物は、舞ぐらいしか居ない。少なくとも、hydeの知る範囲では。
「余計な事してくれたなぁ」
そう言いながらも、hydeの顔は優しく笑っていた。
「・・・ごめんな、tetsu」
言って、ベッドから降りようとした時。
hydeは、tetsuが自分の手を掴んでいる事に気付いた。
「手、握ってて・・・・くれたんか?tetsu」
空いている方の手で、そっとtetsuの頬を撫でる。そこは、彼の手と同じ温かさをしていた。
その温かさが、自分の冷たい手を優しく包んでいる。
温もりとか、そういう大事な物全部忘れてしまった自分の心を、包んでくれている。
hydeにはそう思えた。
「・・・あれ?」
視界が滲んで、hydeはごしごしと目を擦った。
「何?何で?」
擦っても擦っても、視界は晴れることなく滲んで歪む。
やがて、hydeの目から涙が落ちた。ぽろぽろと、赤い宝石かなにかのように綺麗な雫が零れた。
けれど、どうして涙が出るのか、hydeには解らなかった。
「・・・・・tetsu、おかしいわ。
涙が、悲しくないのに、痛いところもないのに出てくんのや。止まらへんのや、tetsu。・・・・・何でなんや?」
両手で必死に溢れる涙を拭いながら、hydeは嗚咽まじりにか細く言った。
広い部屋に、hydeの泣き声だけが響く。
その、少しの間の後。
「本当に、どこも痛くないんか?」
優しい声音の問い掛けに、hydeはふるふると首を振った。
「じゃあ、どこが痛い?」
「・・・・胸が、痛い。こころがいたい」
顔を抑えているから、hydeの声はくぐもっていて聞き取り難い。
「かなしくないのに、けがしてないのに、なみだがでるなんて。
おれはこんなきもち、しらない。こんなきもち、なったことないもん。なあ、これはなんていうきもちなんや?」
子供のように泣きじゃくりながら尋ねるhydeに、優しい声は告げた。
「それはな、『嬉しい』って気持ちや。涙はな、悲しい時とか、身体が痛い時だけやのうて、嬉しい時にも出るんやで。・・・覚えとき、hyde」
呼ばれて顔を上げたhydeの前で、起き上がったtetsuが微笑んでいた。


      その 包み込むような優しい笑顔
      
      俺の名を呼ぶ 優しい声

      これが 本当に欲しかった物 望んだもの

      やっと見つけたんだ・・・・
      
      それだけで 世界が変わる

      古い世界が 音を立てて崩れ去る
      
      その騒音の中で 小さな儚い音が響いた
      
      心の氷が 砕けた音が・・・・・・・




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2404 序章 「月光」 2001/12/21(Fri)05:27 風城空牙 (size:1911)
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2423 早速のご感想大・感・謝・・・v 2001/12/21(Fri)18:56 風城空牙 (size:907)
2429 きゃぁ!!(^▽^) 2001/12/22(Sat)04:38 まいちん☆ (size:769)
2432 第一章 「日常と呼び声」 2001/12/22(Sat)08:51 風城空牙 (size:4217)
2433 ・・・・なんか長い(爆) 2001/12/22(Sat)09:03 風城空牙 (size:993)
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2437 第二章 「狂気に似ている」 2001/12/22(Sat)15:58 風城空牙 (size:4368)
2438 第三章 「月、満ちる時」 2001/12/22(Sat)16:07 風城空牙 (size:4719)
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2458 第四章 「邂逅」 2001/12/23(Sun)11:45 風城空牙 (size:4516)
2459 ・・・・・どうしよ(自爆) 2001/12/23(Sun)12:09 風城空牙 (size:1064)
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2472 幕間「今絡まる運命の螺旋」 2001/12/24(Mon)18:58 風城空牙 (size:5966)
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2497 第五章 「動き出す―――」 2001/12/30(Sun)12:47 風城空牙 (size:4078)
2498 第六章 「血色の薔薇」 2001/12/30(Sun)17:46 風城空牙 (size:3106)
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2507 明けまして↓ 2002/1/1(Tue)16:29 風城空牙 (size:1592)
2514 第七章 「月が沈み日が昇る」 2002/1/2(Wed)10:42 風城空牙 (size:4789)
2518 第八章 「求める理由」 2002/1/3(Thu)11:39 風城空牙 (size:5582)
2519 第九章 「抑え切れない力」 2002/1/4(Fri)09:34 風城空牙 (size:4120)
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2547 わーい \(^〇^)/ 2002/1/8(Tue)19:12 風城空牙 (size:862)
2554 第十章 「眠れる森の――」 2002/1/9(Wed)18:51 風城空牙 (size:5635)
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2559 第十一章 「その感情の名前」 2002/1/10(Thu)18:28 風城空牙 (size:2948)
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2568 幕間 「笑顔」 2002/1/13(Sun)08:21 風城空牙 (size:2405)
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2582 第十三章 「戸惑う想い」 2002/1/16(Wed)18:44 風城空牙 (size:2935)
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2595 第十四章 「正反対の気持ち」 2002/1/20(Sun)11:17 風城空牙 (size:3375)
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2612 遅くってごめんなさい(汗) 2002/1/27(Sun)12:45 風城空牙 (size:839)
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2614 第十五章 「迷いを捨てた胸に在るモノ」 2002/1/27(Sun)12:53 風城空牙 (size:3185)
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2626 第十七章 「サヨナラと約束」 2002/2/19(Tue)20:58 風城空牙 (size:2752)
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