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【2518】第八章 「求める理由」
2002/1/3(Thu)11:39 - 風城空牙 - Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 5.01; Windows 98) - 16376 hit(s)

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広い部屋に、よく通る女の声が響く。
『hyde。まさか妾を忘れた、なんて言わないでしょうね?』
「まさか。俺が貴女を忘れるわけ無い。・・・・・・いや、忘れられるはず無い!!」
叫んでhydeは宙を睨んだ。
そこには赤い炎に照らされながら、薄紅色の霧のようなものが漂っていた。
「・・・・・折角あの時殺してやったのに、何で蘇ったんや。義母様」
弱々しいhydeの言葉に、ほほほ、と高い笑い声が答える。
『だって、hyde。妾が貴方になど殺されるわけがないでしょう。いくら魔力が弱っていてもね。
貴方はあれで妾を殺したつもりだったんでしょうけど』
言い終わると同時、霧が完全に人の形を取って床に舞い降りた。
そこに立っているのは、どこか儚げな美しい女性。
風になびく長い黒髪、白すぎる肌、身に纏った薄紅色のワンピースに包まれた細い身体。
澄んだ瞳はhydeと同じ血の色に輝いている。同じ、妖魔の証。
『けれど、さすがの妾でもすぐには蘇れなかった。貴方が妾の身体を骨も残らぬように焼き払ってくれたおかげで』
舞はゆっくりとhydeに歩み寄っていく。
『だから妾は時を待つ事にしたの。多くの魔力が集まるこの時を。
貴方がいずれ暴走する事は、一緒に居た五年程の間で良く解っていた事だから。
・・・・貴方は優しすぎた。妾と同じ、妖魔であるには、余りに優しく脆かった。
解っていたのに、深い傷を負った貴方の心が病んで行くのを、妾は見ている事しかできなかった・・・・・』
「触るな」
頬を舞の白い手に撫でられ、hydeは低く囁いた。
だが舞は気にする事無くhydeの頬を両手で包み込んだ。
『だから、これはその償い。貴方を壊してしまった償い。
貴方が自分の魔力に呑まれてしまわないように、貴方を止める為に。
妾はその為に、ずっとあの写真に魂を宿して生き長らえていた・・・・もう燃やされてしまったけれど。
そこで、哀しみに犯されていく貴方をずっと見ていたのです』
「触るな!!舞!!」
hydeは叫ぶと同時、舞に向けて青い炎を放った。
が、それに包まれた瞬間、舞の身体は霧散し、空中でまた人型を取った。
茫然と自分を見上げるhydeを微笑みながら見下ろし、
『無駄よ。今の妾には実体が無いのだもの。だから、どんな強力な魔法も効かないわ』
悠然と舞は言った。
ふと、その視線がhydeの後ろに立ち尽くしているtetsuに留まった。
『・・・・・ねぇ、hyde。あれだけ求めていたモノが手に入ったのに、何故貴方は彼の血を吸わなかったの?』

「――そうだっ、tetsu!!」
後ろの方でただ見ているだけだった星夜が、舞の一言ではっと叫んだ。
視力が自慢の栗色の瞳でtetsuをじっと見る。
別に外傷は無い。顔色も悪くない。
虚ろで何も映していない瞳も、生来の黒色のままだ。
だが、その首筋には浅い傷跡がある――――

『どうして?一度噛み付いたなら、躊躇う必要は無いでしょう?』
舞は不思議そうな顔をしてhydeを見下ろしている。
「・・っくく・・・・」
ふいに、hydeが押し殺した笑い声を漏らした。
肩を震わせて、喉の奥で笑っている。
『・・・・・・・何がおかしいの』
「・・・だって、なぁ。自分、一生解らへんような事を訊いて来るから」
言って、また笑う。
舞は不快そうに眉を顰め、
『黙りなさいhyde』
抑えた声で静かに命令した。
だがhydeは何も言われなかったと言わんばかりに笑い続ける。その声が次第に大きくなって、
『黙りなさい!!』
舞が耐え切れずに怒鳴った。
その顔をちらりと上目遣いに見上げて、hydeは髪を掻き揚げながら言った。
「・・・我等魔族は影の種族・・・・」
『え?』
「光の種族、即ち人間を食す事で生き延びている食人種」
「hydeさん、何を言ってるの・・・・?」
誰に聞かせるでもなく言葉を紡ぐhydeを見つめながら、星夜が言った。
「あれは・・・・妖魔の言い伝えだよ」
答えたのはyukihiroだ。
「なんや?言い伝えって」
kenもyukihiroを見たが、yukihiroは黙って、と口に指を当てて答えてはくれなかった。
「何種もの魔族の中でも最も魔力の高いとされるのが我が妖魔族。
その高い魔力は人血を飲み干す事で得られる物である・・・・・・・これを教えてくれたんは、貴女やったなぁ、舞」
hydeは薄く微笑みながら舞を見上げた。
「俺やって今は同じ妖魔なんやから、血吸わな生きていかれへん。・・・けどな」
と視線を外して、
「解ってても・・・出来へんかった。俺と同じ思い、させたくなかったんや」
hydeはtetsuを優しい目で見上げ、小さく呟いた。
「こんなに、温かくて綺麗な光を・・・・自分の手で汚すの、イヤやったから。
傍にいて貰えたらええなって、ただそう思ったんや。
tetsuの傍は、母様の傍みたいに暖かくて、幸せやから」
「・・・・母親・・・?そうか」
「な、何?yukihiro君?」
星夜は横でぶつぶつ言い始めたyukihiroに驚きつつ後ずさった。
「――――やっぱり。tetsu君とあのhydeって妖魔にはちゃんと関係があったんだ」
「関係って、どんなんや?」
「んー、簡単に言うとねken君。妖魔って殆ど不老不死じゃない」
「そうやな」
「で、今俺オリジナルの奥の手使ってみたんだけど。あの人元はこの辺りの領主の息子だったんだ」
「え!?(てゆーか『俺オリジナルの奥の手』って何yukihiro君!?)」
「なんか、あの舞って人の所為で妖魔になっちゃったらしいんだ」
「・・・・(何でそんな事解るんや・・・・)」
「その時、元々病弱だった母親が他界しちゃってるんだけど、その人は何度も生まれ変わっていたんだ。
で、今はtetsu君になってるんだよ」
「ふーん・・・・」
「・・・yukihiro君奥の手って一体・・・・」
素直に納得してしまったken&星夜だが(星夜は微妙に納得しきれていないが)、次の瞬間
「「何だって――――――っ!!?」」
と見事にハモった。

横で聞いていた舞は、妙に関心しながら
『・・・・あの子、神術使いよね』
「そうやな」
『・・・・今のって、精神感応術の応用かしら』
「そうやないの?記憶読むんはそれに似とるし」
あくまでも冷たく応対するhydeに小さく溜息を吐いて、舞は腕組みしながら言った。
『・・・・で?hyde、貴方はその少年が母君の生まれ変わりだと知って手に入れようとしたのかしら』
hydeは思いっきり首を振った。
「ううん、知らへんかった」
『・・・・じゃあ何故?』
舞は顔をひくつかせてもう一度訊いた。
hydeは少し唇を尖らせて言った。
「さっきから言ってるやんか。ずっと待ってた光が見えたから呼んだんや」


      あなたの光で

      俺を 照らして欲しかった

      あなたに 俺の傍に

      一緒に居て欲しかった それだけ

      でも

      このまま 共に在る事が

      赦されないとしたら

      俺は 

      また独りなんだ・・・・・・




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2404 序章 「月光」 2001/12/21(Fri)05:27 風城空牙 (size:1911)
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2429 きゃぁ!!(^▽^) 2001/12/22(Sat)04:38 まいちん☆ (size:769)
2432 第一章 「日常と呼び声」 2001/12/22(Sat)08:51 風城空牙 (size:4217)
2433 ・・・・なんか長い(爆) 2001/12/22(Sat)09:03 風城空牙 (size:993)
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2437 第二章 「狂気に似ている」 2001/12/22(Sat)15:58 風城空牙 (size:4368)
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2458 第四章 「邂逅」 2001/12/23(Sun)11:45 風城空牙 (size:4516)
2459 ・・・・・どうしよ(自爆) 2001/12/23(Sun)12:09 風城空牙 (size:1064)
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2498 第六章 「血色の薔薇」 2001/12/30(Sun)17:46 風城空牙 (size:3106)
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2507 明けまして↓ 2002/1/1(Tue)16:29 風城空牙 (size:1592)
2514 第七章 「月が沈み日が昇る」 2002/1/2(Wed)10:42 風城空牙 (size:4789)
2518 第八章 「求める理由」 2002/1/3(Thu)11:39 風城空牙 (size:5582)
2519 第九章 「抑え切れない力」 2002/1/4(Fri)09:34 風城空牙 (size:4120)
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