戻る〕 〔クリックポイント〕 〔最新の一覧

【2514】第七章 「月が沈み日が昇る」
2002/1/2(Wed)10:42 - 風城空牙 - Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 5.01; Windows 98) - 15850 hit(s)

引用する
パスワード




これは何?
とても綺麗で とても邪悪
こんなに 禍々しいイキモノ
初めて見た――――――



「ようこそ、俺の城へ」
薄紫の空を背に優雅な礼をして、hydeは三人に微笑みかけた。
開いた窓から吹き込む風が、そっとhydeの黒い髪を揺らす。
「出迎えられなくてすまなかった。・・・俺はhyde。君達の名前は知っているよ」
言って口を閉ざす。その赤い唇は、微笑んだまま。
星夜が沈黙を破って口を開いた時、
「・・・・・あ、あの」
「ああ、もう日が昇るね」
hydeはそれを遮って窓の外へ深紅の瞳を向けた。見れば、遠くの空はもう橙色に変わっていた。
その表情がどこか悲しげで、星夜は拍子抜けしてしまった。
(この人が本当にtetsuを・・・・?)
戸惑う星夜の横で、yukihiroが口を開いた。
「hydeさん。貴方がこの城の主なら、俺達の友人がどこにいるか、知りませんか?」
「俺らはそいつを探して来たんや。解ってんなら教えてや」
kenはhydeをじっと睨みながら言った。
怒りを抑えようとする時、kenの黒い瞳は鋭くなる。相手を射抜きそうな程に。
だが、hydeは別に気にした様子もなく、窓枠に身軽に腰掛けた。
太陽が顔を出すのを横目で見ながら、少し悲しげに笑う。
「あーあ。魔法の時間も終わりだな・・・・」
「hydeさん!tetsuの居場所を知ってるんでしょ!?教えて下さい!」
星夜が叫ぶ。
hydeはゆっくりと星夜を見下ろした。
「・・・・・そうだよ。俺は知ってる。・・・呼べば来てくれるよ」
言ってhydeは小さく何か呟いた。
すると、部屋の奥の闇の中から、人影が近付いてきた。
それはhydeの目の前で止まった。
「ね?来てくれたでしょう?」
その肩に手を乗せて、くすくす、と笑う。
「・・・・・・te・・tsu・・・・?」
星夜が震えながら呼んだ。
現れたtetsuが、別人のようだったからだ。
いつもは明るく笑っているその顔も、今は虚ろで、感情を何一つ浮かべていない。
それだけで、tetsuとは思えない程に変わってしまっていたのだ。
「・・・・・・tetsu君に何かしたんだろう。妖魔」
yukihiroが低く言った。
その呼び方が気に食わなかったかのように、hydeが目を細めた。
「まぁ俺だって馬鹿じゃないから、大体の予想はつくよ。
tetsu君がおかしくなったのは五日前からだ。
夢を見たって言っていたから、そこから少しづつ呪縛の魔法でtetsu君の心を縛っていったんだろう?
そうして心のない人形に仕立てた人間を、妖魔はどうするんだっけken君」
「忘れたんかゆっきー?人形なんか飽きたら捨てちまうやろ?同じや。
コイツら妖魔は、人間を殺す事なんか何とも思ってへん!!
どうせあの姉ちゃん達もそうやって言いなりにしたんやろ!?一人じゃ何にも出来へんから!」
「黙れっ!!!」
怒りに任せたkenの言葉に耳を塞ぎながらhydeが叫んだ。
「俺は・・・そんなつもりじゃない。
tetsuは、殺したりしない。ずっと、傍に居てもらうんだ。
この眩しい光は、俺だけを照らしてればいいんだ」
「何よ、それ」
ふいに星夜が呟いた。
その栗色の大きな瞳からは、涙が流れている。
「そんなの、貴方の勝手じゃない!
tetsuの事なんて、これっぽっちも考えてないじゃない!蝶さんや愛羅さんだってっ・・・・・・・!
三人とも生きてるのよ!?貴方の操り人形じゃない!!そんな事する権利なんか、貴方に・・・ううん、誰にも無いんだからっ!!」
「・・・・・煩いわ。お前達に、俺の苦しみが解るんか?」
ボッ、と音を立てて青い炎が燃え上がった。
「気が狂いそうなくらいの時間を独りで過ごしてた、俺の哀しみが解るって言うんか!?」
無数に灯った憎しみの火に青白く照らし出されたhydeの瞳から、涙が零れた。
その赤い瞳が溶け出したかのような、真っ赤な涙。
「星夜。お前の言葉を借りればなぁ、俺やって生きてんのや!もう人間やないけど、それでも生きてんのや。
なのに、なんで幸せになろうとしたらダメやの?独りはイヤやって思って、誰かに一緒に居て欲しいって望む事が、何でダメやの?」
整った顔を哀しみで歪めてか細く叫ぶhydeに、星夜もkenも言い返せない。
ただ、yukihiroだけがhydeをじっと見つめていた。
その冷たい瞳に浮かんでいるのは、憐れみ。
「そうだね。貴方だって生きている。それは解るよ。魔獣だってなんだって生き物だから。
けど、貴方の言う幸せは、他人を不幸にしてしか得られない物でしょ?
それを正当化しようとするのはおかしいんじゃない?」
「・・・・それでもっ、俺はtetsuと一緒に居たい。ずうっと待って、待ち続けて、やっと手に入れた光なんや。
絶対離さへん・・・・・・・yukihiro、お前の神術なんかに屈する気もないで」
tetsuにしがみ付きながら三人を睨んでいるhydeの言葉に少し驚いて、
「何だ、お見通し?」
yukihiroは呟いた。
「・・・・このワガママな兄ちゃん、どうしたろかなぁ、ゆっきー?」
ふいにkenが言った。
さっきよりは落ち着いた風だが、目が据わっている。
「どうしようねぇ、kenちゃん?」
応じるyukihiroの目も据わっている。
星夜だけが
「何?何するのよ!」
と囁いている。
そんな星夜の頭をぽんぽんと撫で、kenが動いた。
「お仕置きや・・・」
『お待ちなさい』
ふいに窓から強く冷たい風が吹き込んで、部屋中の火が掻き消え、室内が暗闇に閉ざされる。
風に乗って、中庭に咲いていた薔薇の匂いが吹き込んでくる。
「その声・・・・まさかっ!?」
hydeの慌てたような声が聞こえて、新しい火が灯った。
禍々しい、血色の炎が。
『・・・諦めなさいhyde。満月が消えた今、貴方に勝ち目は無いわ』
その言葉に窓を振り返ったhydeの目に映ったのは、顔を出し切った太陽の白い輝きだった。


      静かなる宴は 幕を閉じ

      後に残るのは 

      深い悲しみと
 
      流れた涙の

      赤い痕・・・・・・・・・



【ツリー構成】 〔このツリー(2404)の投稿を全て表示する

2404 序章 「月光」 2001/12/21(Fri)05:27 風城空牙 (size:1911)
2408 削除
2411 削除
2414 削除
2418 削除
2423 早速のご感想大・感・謝・・・v 2001/12/21(Fri)18:56 風城空牙 (size:907)
2429 きゃぁ!!(^▽^) 2001/12/22(Sat)04:38 まいちん☆ (size:769)
2432 第一章 「日常と呼び声」 2001/12/22(Sat)08:51 風城空牙 (size:4217)
2433 ・・・・なんか長い(爆) 2001/12/22(Sat)09:03 風城空牙 (size:993)
2436 削除
2437 第二章 「狂気に似ている」 2001/12/22(Sat)15:58 風城空牙 (size:4368)
2438 第三章 「月、満ちる時」 2001/12/22(Sat)16:07 風城空牙 (size:4719)
2439 削除
2440 削除
2446 削除
2451 削除
2458 第四章 「邂逅」 2001/12/23(Sun)11:45 風城空牙 (size:4516)
2459 ・・・・・どうしよ(自爆) 2001/12/23(Sun)12:09 風城空牙 (size:1064)
2468 削除
2470 削除
2471 削除
2472 幕間「今絡まる運命の螺旋」 2001/12/24(Mon)18:58 風城空牙 (size:5966)
2485 削除
2490 削除
2492 削除
2494 削除
2495 削除
2496 削除
2497 第五章 「動き出す―――」 2001/12/30(Sun)12:47 風城空牙 (size:4078)
2498 第六章 「血色の薔薇」 2001/12/30(Sun)17:46 風城空牙 (size:3106)
2500 削除
2505 削除
2507 明けまして↓ 2002/1/1(Tue)16:29 風城空牙 (size:1592)
2514 第七章 「月が沈み日が昇る」 2002/1/2(Wed)10:42 風城空牙 (size:4789)
2518 第八章 「求める理由」 2002/1/3(Thu)11:39 風城空牙 (size:5582)
2519 第九章 「抑え切れない力」 2002/1/4(Fri)09:34 風城空牙 (size:4120)
2520 削除
2523 削除
2525 削除
2530 削除
2541 削除
2547 わーい \(^〇^)/ 2002/1/8(Tue)19:12 風城空牙 (size:862)
2554 第十章 「眠れる森の――」 2002/1/9(Wed)18:51 風城空牙 (size:5635)
2555 削除
2558 削除
2559 第十一章 「その感情の名前」 2002/1/10(Thu)18:28 風城空牙 (size:2948)
2560 続・ねぇねぇ。 2002/1/10(Thu)18:43 風城空牙 (size:828)
2566 第十二章 「覚醒を待つ心」 2002/1/13(Sun)08:12 風城空牙 (size:2444)
2567 削除
2568 幕間 「笑顔」 2002/1/13(Sun)08:21 風城空牙 (size:2405)
2578 削除
2571 削除
2574 削除
2580 削除
2582 第十三章 「戸惑う想い」 2002/1/16(Wed)18:44 風城空牙 (size:2935)
2583 削除
2585 削除
2587 削除
2594 削除
2595 第十四章 「正反対の気持ち」 2002/1/20(Sun)11:17 風城空牙 (size:3375)
2596 削除
2601 削除
2608 削除
2612 遅くってごめんなさい(汗) 2002/1/27(Sun)12:45 風城空牙 (size:839)
2613 幕間 「祈りに似た言葉」 2002/1/27(Sun)12:47 風城空牙 (size:1081)
2614 第十五章 「迷いを捨てた胸に在るモノ」 2002/1/27(Sun)12:53 風城空牙 (size:3185)
2616 削除
2626 第十七章 「サヨナラと約束」 2002/2/19(Tue)20:58 風城空牙 (size:2752)
2627 削除
2628 削除
2632 削除

※ 『クリックポイント』とは一覧上から読み始めた地点を指し、ツリー上の記事を巡回しても、その位置に戻ることができます.