戻る〕 〔クリックポイント〕 〔最新の一覧

【2497】第五章 「動き出す―――」
2001/12/30(Sun)12:47 - 風城空牙 - Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 5.01; Windows 98) - 16533 hit(s)

引用する
パスワード


柔らかな月光 降り注ぐ星
薄紫に変わる空 近づく夜明け
もうすぐ太陽がやってくる 目覚めの時が
疎ましい日差し・・・・
このままずっと 眠っていたい あなたの隣で・・・・・・



「・・・・ねえken君」
「・・・・何やゆっきー」
「何かさ・・・ここ、変じゃない?」
ken・yukihiro・星夜は、蝶と愛羅に通された客室に居た。
古城はその巨大な外観通り、中の通路やら階段の踊り場やらも恐ろしく広かった。
勿論客室も広く、天蓋こそ無いものの大きなベッドが左右に四つずつ据え置かれていて
なおスペースが余っていた。
その中心にちょこんと置かれている白木の丸テーブルを囲んで、三人は城の主を捜し出
してtetsuの居場所を聞き出そうと色々考えていたのだが。
「変って言っても・・・何が、って具体的には言えないんだけどさ。
・・・城中に、魔力が渦巻いてるんだよね。誰かが強力な魔法を使おうとしてる。
そんな感じ」
いつもなら直感で物事を言うyukihiroが、珍しく考え込みながら言う。
「そーなると、さっきの二人が持ってた蝋燭の灯りも説明つくな。
青い炎なんか、魔法でもなければ付けられへん」
kenが真剣そのものの顔で言った。
「でも、魔法って、とっくの昔に使用禁止法令出されたじゃない!
・・・ううん、それよりも!その、誰かっていうのが蝶さんと愛羅さんのご主人様って
人ならtetsuも危ないんじゃないの!?」
星夜は信じられないといった面持ちで小さく叫んだ。
「そう考えるのが妥当だね」
「せやったら、早いとこtetsuを捜さんとな。・・・ほんと、手のかかる奴や」
言って、kenは立ち上がった。


空に浮かぶ満月は、もう沈み始めていた。
うっすらと白み始めた闇を見据えて、hydeは窓を押し開けた。
冷たい風が部屋に入り込み、青い灯りを吹き消して行く。けれどそれは一瞬の事で、素
早く新しい炎が灯る。
「・・・・tetsu」
窓の縁に腰掛けて、囁くように呼ぶ。
その声だけが頼りとでも言うように、tetsuは暗がりからゆっくりと足を踏み出す。
「tetsu・・・心を封じてしまったから、君にはもう見えないかもしれないけれど」
言いながらhydeは髪を掻き上げた。
露になった首筋に、深い傷跡が覗いた。

その瞬間、tetsuの意識下から何かが目覚めた。

「この傷はね、俺が自分で付けたんだ。
最初はただ舞に噛まれた跡を消したかっただけだった。
でも、いつからか・・・このまま死んでしまえたらって、思い始めて。妖魔が不死の身
である事は、よく解っていたんだけどね。
・・・・気が付いたら、こんなに深い傷になってた。消えないくらいに深い傷に・・・
・・」
悲しげに言葉を紡ぐhydeは、tetsuの変化に気付かない。
ただ、その緋色の瞳で刻々と色の変わって行く空を見つめている。
と、首の傷にtetsuの長い指が触れた。
hydeは驚いて目を見開いた。何故自我がないのに動ける・・・・・・・・・?
「tetsu?」
訝しげなhydeの声に答えたのは、柔らかい女性の声だった。
『なんて酷い傷なの・・・。
痛かったでしょう?
辛かったでしょう?
寂しかったでしょう?
一体どれ程の時を独りきりで過ごしていたのかしら?
可哀想なhyde・・・・・・』
悲痛に顔を歪めて、tetsuはhydeの頬を両手で包んだ。だが、その声はやはり女性の物
だ 。
訳が解らず混乱していたhydeだが、はっと気付いて目を丸くした。
「その声・・・・母様・・・・?」
恐る恐る、自分の頬に触れている手に触れる。
だが、もうそこには抜け殻のようなtetsuが立っているだけだった。
「まさかな・・・・?」
hydeが消えいりそうな声で呟いた、その刹那。
「「ご主人様」」
蝶と愛羅の、冷たく落ち着いた声が響いた。
「お客様方が」
「客室から出て行かれたようです」
「・・・・ふうん、やっぱり邪魔する気なんだ・・・・」
冷静さを取り戻したhydeは少しだけ悩むような素振りを見せて、
「・・・いいや。蝶、愛羅、三人をここまで案内してあげて?」
「「かしこまりました」」


二人の静かな足音が遠ざかって行く。
それを頭の隅で感じながら、hydeはtetsuの顔を覗き込んだ。
「・・・・さっきのは・・・何だったんだ・・・?」
答えが返ってくる事はない。
ただはっきりと解っているのは、tetsuの中に『誰か』が居る事。
「・・・・・・解らない」
解らない。
解らない。何も。彼についての何もかも。
そう。
自分は彼の事を何一つ知らない。
いっそ全てを奪ってしまえば、何も気にする事は無いのかもしれない。
そう思って、hydeはゆっくりと、tetsuの首筋に赤い唇を寄せた――――


窓の外、深紅の薔薇が咲き始めていた。


      風に乗って 薔薇の花が舞う

      ばらばらに 散らばる花びら

      雫は 紅

      色褪せる事を知らない

      鮮やかな

      俺の涙と あなたの血

      そして この手に残るのは

      温かくも優しい光か 永遠に従属する闇か・・・・・・・





【ツリー構成】 〔このツリー(2404)の投稿を全て表示する

2404 序章 「月光」 2001/12/21(Fri)05:27 風城空牙 (size:1911)
2408 削除
2411 削除
2414 削除
2418 削除
2423 早速のご感想大・感・謝・・・v 2001/12/21(Fri)18:56 風城空牙 (size:907)
2429 きゃぁ!!(^▽^) 2001/12/22(Sat)04:38 まいちん☆ (size:769)
2432 第一章 「日常と呼び声」 2001/12/22(Sat)08:51 風城空牙 (size:4217)
2433 ・・・・なんか長い(爆) 2001/12/22(Sat)09:03 風城空牙 (size:993)
2436 削除
2437 第二章 「狂気に似ている」 2001/12/22(Sat)15:58 風城空牙 (size:4368)
2438 第三章 「月、満ちる時」 2001/12/22(Sat)16:07 風城空牙 (size:4719)
2439 削除
2440 削除
2446 削除
2451 削除
2458 第四章 「邂逅」 2001/12/23(Sun)11:45 風城空牙 (size:4516)
2459 ・・・・・どうしよ(自爆) 2001/12/23(Sun)12:09 風城空牙 (size:1064)
2468 削除
2470 削除
2471 削除
2472 幕間「今絡まる運命の螺旋」 2001/12/24(Mon)18:58 風城空牙 (size:5966)
2485 削除
2490 削除
2492 削除
2494 削除
2495 削除
2496 削除
2497 第五章 「動き出す―――」 2001/12/30(Sun)12:47 風城空牙 (size:4078)
2498 第六章 「血色の薔薇」 2001/12/30(Sun)17:46 風城空牙 (size:3106)
2500 削除
2505 削除
2507 明けまして↓ 2002/1/1(Tue)16:29 風城空牙 (size:1592)
2514 第七章 「月が沈み日が昇る」 2002/1/2(Wed)10:42 風城空牙 (size:4789)
2518 第八章 「求める理由」 2002/1/3(Thu)11:39 風城空牙 (size:5582)
2519 第九章 「抑え切れない力」 2002/1/4(Fri)09:34 風城空牙 (size:4120)
2520 削除
2523 削除
2525 削除
2530 削除
2541 削除
2547 わーい \(^〇^)/ 2002/1/8(Tue)19:12 風城空牙 (size:862)
2554 第十章 「眠れる森の――」 2002/1/9(Wed)18:51 風城空牙 (size:5635)
2555 削除
2558 削除
2559 第十一章 「その感情の名前」 2002/1/10(Thu)18:28 風城空牙 (size:2948)
2560 続・ねぇねぇ。 2002/1/10(Thu)18:43 風城空牙 (size:828)
2566 第十二章 「覚醒を待つ心」 2002/1/13(Sun)08:12 風城空牙 (size:2444)
2567 削除
2568 幕間 「笑顔」 2002/1/13(Sun)08:21 風城空牙 (size:2405)
2578 削除
2571 削除
2574 削除
2580 削除
2582 第十三章 「戸惑う想い」 2002/1/16(Wed)18:44 風城空牙 (size:2935)
2583 削除
2585 削除
2587 削除
2594 削除
2595 第十四章 「正反対の気持ち」 2002/1/20(Sun)11:17 風城空牙 (size:3375)
2596 削除
2601 削除
2608 削除
2612 遅くってごめんなさい(汗) 2002/1/27(Sun)12:45 風城空牙 (size:839)
2613 幕間 「祈りに似た言葉」 2002/1/27(Sun)12:47 風城空牙 (size:1081)
2614 第十五章 「迷いを捨てた胸に在るモノ」 2002/1/27(Sun)12:53 風城空牙 (size:3185)
2616 削除
2626 第十七章 「サヨナラと約束」 2002/2/19(Tue)20:58 風城空牙 (size:2752)
2627 削除
2628 削除
2632 削除

※ 『クリックポイント』とは一覧上から読み始めた地点を指し、ツリー上の記事を巡回しても、その位置に戻ることができます.