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【2472】幕間「今絡まる運命の螺旋」
2001/12/24(Mon)18:58 - 風城空牙 - Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 5.01; Windows 98) - 16177 hit(s)

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ねぇ 聴いてくれる?
俺が いつからココに居るのか
どうして こんな身体になってしまったのか
君には 知って欲しいんだ 何故だか解らないけど
俺の孤独 俺の苦しみ

そして、どれほど君の光に焦がれていたか。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++

「母様・・・早よ起きてや」
ゆさゆさと、少年は横たわる母親の身体を揺さぶった。だが、母親に目覚める気配はない。
「なぁ、母様・・・なんで、こんなに冷たいんや」
力無く投げ出された雪色のほっそりとした手を取って、少年は泣きそうな声で呟いた。
・・・・なぜ、こんなにも冷たいのか。
なぜ、あの綺麗な緑色の瞳が開いてくれないのか。
その答えを、彼は知っていた。
それは『死』だ。
生まれつき心臓を患っていた母。
その病状が数年の内にみるみる悪化していった事くらい、まだ十にも満たない少年だって知っていた。
ここ一年の間など、床から起き上がる事さえままならない程だった。
その理由の一つに、彼女を心から愛し支えてくれていた夫の死があった。

その男はこの辺り一帯を治める領主だった。
その息子である少年は、時期領主に申し分ない文武両道に長けた優秀な子であった。
優しい父と美しい母と共に、少年はいつまでも幸せに暮らしていけると信じていた。願っていた。
しかし、その願いは容易く打ち崩される。
父親が、戦死したのだ。
領地の外れで起きた内乱を収めに行き、終戦のきざしの見えた矢先の事であった。

「母様・・・・俺が守ってやる言うたのに・・・・・父様と約束したのに」
少年の透き通るように白い頬を、透明な雫が伝う。
それは、緑色の瞳から止めどなく溢れ、地に零れていく。
「あんな奴に追い出されて・・・・・・こんな所で母様を死なせてしもた・・・・・」
あんな奴、とは父に仕えていた老人の事だ。
年の割に野心家で、少年はいつか老人がこの屋敷を奪って領主になろうとしているんじゃないかと疑っていた。
その予感は的中した。
なのに、それを防ぐ事が出来なかった。
それを自分の幼さの所為にする事は彼のプライドが赦さなかった。
そしてなにより、父が戦に出向く直前、自分に言った言葉。大切な約束。それを守れなかった事が悔しかった。

『ええか、今はこの屋敷の主はお前や。この家と、そして母さんを守れ。・・・頼んだで、hyde』

「・・・くっそぉ・・・!」
hydeは声を殺して泣いた。涙が止まらなかった。悲しくて、悔しくて、自分が嫌で堪らなかった。
『・・・俺にもっと力があれば・・・!!』
「母君も死なずに済んだ、そう思うのですね?」
ふいに背後から聞こえた声に、hydeはびくっと身を竦ませ、素早く振り向いた。
動かない母親の遺体を、庇うように両手を広げて。
「怖がらないで下さいな。妾は舞。貴方を助けに参りましたの」
言って、茂みの中から現れたのは、儚げな印象の美しい女だった。
裾に細かなレースを縫いつけた薄紅色のワンピースを纏っていて、風に舞う腰までありそうな長い髪は艶やかな黒。
大きな澄んだ瞳は赤い。血のように紅い。肌は生者とは思えぬほどに白く――――
「・・・あんた、妖魔やな」
きっ、と緑玉を思わす目で彼女を睨みつけ、hydeは低く言い放った。
舞はころころと笑った。目を細めて楽しそうに笑った。
「ほほほ、随分と賢い坊やだこと。まあ御領主の御子息であればそのくらいは知っていて当然ですわね」
「何しに来たんや!!早よ去れ!!でないと・・・」
叫びながら、hydeは横に投げ捨ててあった自分の剣を拾い上げ、すらりと抜いた。
白刃が、木々から差し込む陽光を弾いて禍々しく光る。
「俺やって腕に覚えくらいある。無傷では済まされんで」
「・・・威勢だけは良いのですね。でも、腕が震えていましてよ?実際に人を斬るのは初めてなんじゃなくって?」
「・・・・!!」
「一緒にいらっしゃい。妾が貴方の義母になって差し上げましょう」
「・・・や、嫌や、寄るなっ!!」
恐怖に囚われ、hydeはぶんぶんと剣を振り回した。けれど舞は気にも留めずにhydeに近付く。
「大丈夫・・・痛みは無いわ。一瞬の快楽の後、貴方は老いや死の恐怖から開放されるのです」
「嫌っ、嫌や・・・やめてぇっ・・・・!!!!」
泣き叫ぶhydeの身体を優しく抱き寄せ、舞はその細い首筋に口付けた。
「っ・・・・・」

『あぁ・・・おれがこわされる・・・・・』

「くすくす、なんて美味しい血なのかしら。極上のワインのようね。・・・あら、気を失ってしまったのね?」
舞は力の抜けたhydeの小さく軽い身体を抱き上げた。
そして、横たわる女性を冷たく一瞥すると、茂みの奥へと消えた。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

「・・・その時から、俺はもう人の子やなくなった。・・・・・妖魔になったんや!」
hydeの瞳から、涙が溢れた。赤い涙が。
「見てや!tetsu、これを見てや!目だけやない、涙さえも血の色になってんやでっ・・・・」
話し始めた時とは、もはや別人のようだった。
取り乱したhydeは、tetsuの前で顔を隠しもせず泣き叫んでいた。まるで幼い子供に戻ってしまったかのように。
「・・・っ、俺はっ・・・・あの女を、舞を憎んでた。
けど、俺やってアホやない。しばらくは言う通りにしてやったわ。
呼んで言うから『義母様』って呼んでやった。作り笑い浮かべてな」
tetsuは何も言わない。否、言えない。心を消されているからだ。
黒い瞳は穴の如く虚ろで、真っ直ぐにhydeだけを見つめている。
「・・・五年くらい後やったかなぁ。舞の魔力が急に弱くなってしまったんや。
捕まえとった旅人皆喰ろうも力が戻らなくて、どうしたらええやろう言うて大慌てしとった。
せやから、俺に泣きついて来た時、言うてやったんや。『死んでしまえばええんやないの?』って。びっくりしとったなぁ・・・。
その時、俺は舞を殺した。何一つ残らんように、燃やしてやったんや」
hydeは両手を見下ろして、ぽつぽつと言葉を吐き出していく。
掌に、赤い雫が滴り落ちる。
「せやけどな、tetsu・・・・俺は気付いてしまったんや。
舞が居らんかったら、俺は、本当に独りになってしまう事に、殺した後に、気付いたんや・・・・」
ふいに、tetsuの目からも涙が流れた。
「・・・・tetsu、泣いてくれるんか?」
答えは無い。ただ、tetsuの頬を涙が音もなく伝って落ちるだけ。
「・・・・やっぱり、お前は優しいわ。思った通りや」
hydeはそっとtetsuの涙を拭って、その身体を抱き締めた。
「・・・・俺は、お前が欲しかった。お前の真っ白な光を見つけた時からずっと。
お前の、その優しさが。温もりが欲しかったんや。
まるで母様みたいに、暖かかったから・・・・・傍に置いておきたかったんや・・・二度と離さへんように・・・」
hydeは泣き疲れたのか、tetsuにしがみ付いたまま眠ってしまった。
その寝顔は、あどけない子供そのもので、とても愛らしい。
と、それをじっと見つめていたtetsuの脳裏に、か細いがはっきりとした意思の波動のような物が流れた。


『この子はこんなにも長い時を、孤独の中で過ごしていたのね・・・・・・。
私が何度も生まれ変わっている間も、ずっと生き続けていたのね・・・・・・・。
可哀想なhyde・・・・・・』




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2404 序章 「月光」 2001/12/21(Fri)05:27 風城空牙 (size:1911)
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2429 きゃぁ!!(^▽^) 2001/12/22(Sat)04:38 まいちん☆ (size:769)
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2433 ・・・・なんか長い(爆) 2001/12/22(Sat)09:03 風城空牙 (size:993)
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2458 第四章 「邂逅」 2001/12/23(Sun)11:45 風城空牙 (size:4516)
2459 ・・・・・どうしよ(自爆) 2001/12/23(Sun)12:09 風城空牙 (size:1064)
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2613 幕間 「祈りに似た言葉」 2002/1/27(Sun)12:47 風城空牙 (size:1081)
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